2023年2月19日日曜日

香天集2月19日 三好広一郎、柴田亨、石井冴ほか

香天集2月19日 岡田耕治 選

三好広一郎
3Lのセーターキミを守りたい
日脚伸ぶ動く歩道はすぐ終わる
ストーブに保証書のない心臓
虹色の錠剤を切る春炬燵

柴田亨
永き日の鬱っぽくなる靴の紐
風のなか散りながら咲く山茶花よ
水鳥のぷかりさびしき夢を見る
くずきりの黒蜜のあととっぴんしゃん

石井冴
女正月鰯せんべい割れ易く
どの木にも巣箱の架かる鼓動かな
薄氷をつつく人差指の微力
春ごたつ時時出てくるお坊さま

夏礼子
鐘の空枯れの漂いはじめけり
寒満月言いたいことは明日にする
雪しぐれ二者択一を迫られる
臘梅の光の影を遊びたる

加地弘子
雪だるま子どもの声のする家の
真っ先に無口な父の凧揚がる
寒の水音立てて飲む咽のあり
蜜柑挿し鳥語の集う朝かな

木村博昭
遠火事とおもえば列島火の匂い
入学試験ひとりひとりの息づかい
あい寄りて蕩けていたる雪だるま
崩れ落つ土蔵に眠る土雛

嶋田 静
誰の声聞いているのか花八手
十二月馴染みの店の閉店す
初みくじゆるく結んで帰りけり
恵方道大きな熊手動き出す

古澤かおる
犬小屋のネームが変わり春隣
本線を離れ支線の春立てり
残る雪駅舎を鳩のせわしなく
百の椅子半分埋まり卒業す

玉置裕俊
おいらくのはじめの一歩冬木の芽
漆黒や白い綿毛の仔猫来る
瓦礫越え出てゆく君に梅の白
剪定の済む松につく人心地
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

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