2023年3月5日日曜日

香天集3月5日 久堀博美、谷川すみれ、森谷一成ほか

香天集3月5日 岡田耕治 選

久堀博美
不穏なること片隅の梅ま白
軽くなる初蝶の黄に遭いてより
芽吹山つぎはぎのまま広がれる
春愁の波止場を鳴らし紙テープ

谷川すみれ
レジ袋浮くぞわぞわと春の川
冴え返る瓶の異物の深い淵
鳥雲に嫌いな兄を紛失す
牡丹雪屋根の形をなぞりつつ

森谷一成
白息のゴジラをまねる厠かな
瓶の口吹けば裏山なだれたる
攻めずしてふぐり守れぬ二月尽
便便と三味線草の遊ばれし

佐藤俊
五音七音十七文字の奇数の春
げんげ田は記憶の箱のいくつめに
忘却は人の進化か多喜二の忌
名刺無くネクタイ締めず暮の春

宮下揺子
冬日射す診察台のぬいぐるみ
静脈を探す指先冬日影
冬空へ二列になりたがるペンギン
着ぶくれて尚着ぶくれる母の背

神谷曜子
これからは自分流なり雑煮食む
初稽古体の芯が定まらぬ
悴んで東照宮の今日を踏む
蝋梅の透明な刻通り抜け 

垣内孝雄
ちやりんこをとばしてゆけり春の風
わだつみの泪ひとつぶ桜貝
春の雨棚田つららく里に居て
啓蟄や管をきれいにする薬

藪内静枝
供華の梅開き大日如来様
侘助の粋な一輪葉の艶も
春寒のやわらかくなる日のかけら
穏やかに庭に一条日脚伸ぶ

吉丸房江
立春の二文字ふいに近くなる
しゃぼん玉子のほっぺたもしゃぼん玉
風の中ひょいと伸びたりチューリップ
野や山や芽出しの雨となりにけり
*岬町小島にて。

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