香天集4月2日 岡田耕治 選
谷川すみれ
春きざすビルに波立つものの影
棘の血の溢れてきたり木の芽時
薄氷触れれば君の声がする
まざりあうあなたとわたし花菜漬
中嶋飛鳥
春の雪返事を待たず傘開く
逃水に足をとられる間柄
春昼のコーヒーの香と和綴本
大空へブランコ問いを躱しおり
森谷一成
詐りの脳天へ降る猫の恋
啓蟄の過ぎて万年されこうべ
自ずから水のかたちに原発忌
ぽっかりと夜間飛行の冴返る
浅海紀代子
冬夕焼信号の間も老いゆくか
咳ひとつ一人の闇に吸われけり
ほどけゆく紐の先より春の闇
初蝶の袖袂には触れず消え
辻井こうめ
アネモネの一重一輪小瓶かな
前略に続く二行の梅便り
本流を逸れてくるめく椿かな
水取の漆黒の時炙りけり
佐藤俊
連翹や人にさからう歳となる
魍魎の頬赤らみて春の宵
紅梅の夜の吐息はとまらない
本題に入れずに居る春あらし
神谷曜子
燦めきの流されてゆく春の川
雛しまう妣の恋文如何にせん
建国記念日旧友と会う日差
春の雪昭和生まれの顔をして
湯屋ゆうや
春場所やアイロンがけの手を上ぐる
花曇弓放つ音間遠なり
初蝶の防音壁を越えんとす
昼の野に蝶という蝶揮発する
藪内静枝
今しがた見送りし人鳥雲に
雛あられ雛人形を飾らずも
野良猫は沈丁の香に酔うたるか
残る鴨日暮はあおしただあおし
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
0 件のコメント:
コメントを投稿