香天集4月9日 岡田耕治 選
三好つや子
死後すこし口角あがる春の月
姉というクラスメートや花杏
永遠に試むかたち鶯餅
円を描き円を出られぬ水馬
辻井こうめ
補助輪のピンクを外す春野かな
花吹雪母もろともに磨崖仏
この木より始まる仕事山桜
シャンソンの生まるる堰や春の月
浅海紀代子
忘れゆくことの早さよ春の雪
春の暮煎じ薬の臭いけり
踏ん張りの効かぬ一日雪柳
朧夜の辿りゆきたる脳死論
宮下揺子
なだめつつ母を連れ出す寒桜
朧の夜父の枕を子が抱いて
本当の顔を知らずに卒業す
春の雨「レインツリー」を読み直す
春田真理子
アボカドは太古のかたち春の皿
土佐水木鈴を鳴らして登校す
窓磨く四月の蒼の抜けるまで
今さらの遺留分にて涅槃西風
小崎ひろ子
青ざめて咲く桜花
夕照を確かに見たと垂れ梅
梅開く書棚の奥の歳時記に
菜種梅雨目当ては本じゃありません
垣内孝雄
雛あられ一人娘もはや初老
ひと尋の光をぬうて初蝶来
先生の朝の挨拶ヒアシンス
卒業のボード給食当番表
玉置裕俊
のどけきに検査ばかりを求む医師
振り返るマスク姿のおもひびと
ひなげしや声出ぬ我を笑ひゐて
桜舞う気鬱の君の長電話
北岡昌子
古木から今年の花を咲かせけり
茎若布佃煮にして少なくなる
川村定子
開花予想去年と同じ日に決まり
院寒し心臓の音聞いており
秋吉正子
化粧する顔のあらわれ春の昼
マスク取り胸いっぱいに春を吸う
大里久代
花びらの水面を照らす月のあり
見守りし子らの背中に梅の花
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
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