香天集4月23日 岡田耕治 選
玉記玉
色彩的耳鳴又は鶯
堆き図鑑に海市匂いたる
万緑の中に一罪紛れいる
口中に梅の種ある嫉妬かな
石井冴
麦秋のしゃがみたくなる匂いかな
起き上り小法師が応え三鬼亡し
鉤爪を持てば戦のなき世かな
遠縁の濡れて出てくる枇杷の種
加地弘子
花の雨お好み焼きにする昼餉
春疾風ゆっくり閉まるエレベーター
踵から踏み込む一歩四月寒
軽く吹く唇につく花吹雪
中嶋飛鳥
記念日の眼を閉じて聞く花の雨
浅春の長き廊下と注射痕
磨崖仏花荘厳す肩を手を
竹の秋たのしきことのみ記したり
砂山恵子
豆の花みなおかつぱで泣き虫で
好きといへ何も起こらぬ春の宵
不景気が顔出すやうに春の蝿
走るほど尾を上げる犬風光る
安部いろん
初桜褪せることなど信じない
恋慕はトゥキュディデスの罠春の闇
犯人の零さぬ苦悩シネラリア
手のひらのAIが告ぐ別れ霜
楽沙千子
梅古木ひと日の朝を大切に
三月の雨や新着旅案内
ビル街を海へ抜け行く鳥曇
旅鞄また持ちたくて五月来る
嶋田静
春蘭をこよなく愛す媼かな
渦潮や波間の船を小さくす
蚕豆の花盛りなる線路かな
春炬燵伸ばした足をにげる猫(モモ)
古澤かおる
城が好き歩くのが好き山桜
アネモネや神戸珈琲モーニング
階段に並んで坐り春の虹
農機具をお売りください竹の秋
前藤宏子
春雨や十四時台のバス一本
道草を食うて八十葱坊主
やんわりと苦言を呈す葱坊主
八十は遊び盛りよ花明り
安田康子
チューリップ平らに開きストレッチ
四月馬鹿百年生くと思いけり
山笑う耳の奥にも関所あり
春キャベツうまく剥がれる日なりけり
森本知美
春の山弁当二つ買い独り
筆先の割れに触れおり春愁
野薊や思い通りに生きたくて
み空より花降る渓の水の音
松並美根子
お先ですふっくら並ぶ草団子
心地良い春の訪れ赤ワイン
雛段の揃いし顔の何を言う
野遊びの人の集いに酔いにけり
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
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