2023年4月30日日曜日

香天集4月30日 谷川すみれ、森谷一成、夏礼子、佐藤俊ほか

香天集4月30日 岡田耕治 選

谷川すみれ
白髪のかすかにきしむ扇風機
六月やごろっと動くバスの尻
残照の由布岳恋をしておりぬ
桐の花次は素顔で会いたいと

森谷一成
ステルスを施すことにつばくらめ
中ほどに黒犬くくり土手青む
花鳥の首奔らする有頂天
ものの芽の気なりゴッホの筆拍子

夏 礼子
恋猫に見られておりぬ酔いすこし
天上は日の黙つづく落椿
雪柳リボンとなってもつれあう
はくれんに風の足あとありにけり

佐藤 俊
時止まるハシビロコウの見開く眼
長編となれぬ人生やよい山
齢経て親しきものに霾ぐもり
まだ残る悪夢を春の水に溶く

湯屋ゆうや
前掛けの体折り曲げ蓬摘む
春の暁正しき寝息しておりぬ
花筏会ふたことなき人に会ふ
桜餅葉まで食ふとか食はぬとか

神谷曜子
鷹化して鳩となる日の同行者
メーテルの髪匂いたる春銀河
ライラック夢から溢れ目が覚める
猫跳んで春が深まる父の里

柏原 玄
晩節の夢とめどなくたんぽぽ黄
うららかに五体満足不満足
南無大師遍照金剛初桜
蛇穴を出て天道の照り翳り

丸岡裕子
探し物いくつもありぬ落椿
若き日の吉野桜と共に老う
春眠し左右の腕の傷見つけ
キュルキュルと風を巻き込むメジロ二羽

目 美規子
眼差のやさしいこけし春座敷
この国の先見通せず黄砂ふる
百歳の母を祝いて花ミモザ
花水木電車遅延のアナウンス

木南明子
いつまでも二羽でいる鳩春日向
光りつつ白木蓮の下に立つ
花の下認知症めく会話かな
庭中にあふれ小手毬大手毬

金重峯子
桜鯛捌きし庭に鱗飛ぶ
来年も来るとの願い飛花落花
風光る笑いの渦は泣き相撲
佐保姫に世界出張願わしゅう 

岡田ヨシ子
シルバーカー菜の花の道細くなる
住んでいた野田から便り藤の花
春眠の覚めて歩数を決めており
一日中窓を鳴らせり春の雷

吉丸房江
枝ぶりの幼き桜花つける
精一杯生きて悔いなき花明り
人の顔見えてかくれて藤の房
万緑の木漏れ日を浴び老いゆけり

勝瀬啓衛門
基礎英語ラジオで始めひこばゆる
箱の中辺り窺う捨て子猫
鳥曇り濁らなくなる堀の水
朝一番歩道に被せ花筵

西村寿子
友が愛す湖畔に集う桜かな
花曇り褒め合っている笑いヨガ


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