2023年5月28日日曜日

香天集5月28日 玉記玉、石井冴、谷川すみれ、渡邉美保ほか

香天集5月28日 岡田耕治 選

玉記玉
語り尽くすにクレソンが長すぎる
カリヨン愉し蟻やら地球やら
鵜は水に水は鵜となり暗くなる
たぶんあの小さな日なた河鹿笛

石井冴
薄皮を脱いで寄り来る葱坊主
子が増えて人工芝の陽炎える
紙芝居始まりそうなアマリリス
長茄子を抱え空から父が来た

谷川すみれ
目を合わせ手を離れゆく燕子花
短夜の親に見られてしまいけり
鯉幟屋根の傷みをなでており
風だけを共にしており夏木立

渡邉美保
五位鷺の見つむる水面虚無ならん
漁りの青鷺半歩退りけり
虫瘤の中の密談半夏雨
銀河系脱け出すつもりかたつむり

中嶋飛鳥
滴りの膨らみきって母の声
大阪鮨自己紹介から始まりぬ
伏線を引いて行きたり蝸牛
カリヨンの響き重なり夕長し

湯屋ゆうや
緑蔭の光を踏んで句会へと
見てほしと硬き平鰤抱え来る
日向水遠くなりゆく飛行音
夏の朝土間掃く音の正しさよ

安部いろん
夜光虫海に太古の夜が来る
夏蝶は止まるステンドグラスの青
旅に捨つ心に棲んでいる火蛾を
夏の汀に会おうこの世に戻るから

藪内静枝
夏に入る物干竿を新しく
霾るや近づいてくる目の手術
ドクターの優しき言葉藤の花
平飼いの卵とともに夏来る

小島守
段ボールばかりを増やし五月闇
高校の夏から喋らなくなりぬ
声高な論議のつづくラムネ玉
現世に戻っていたり明易し
*和歌山市加太にて。

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