2023年6月4日日曜日

香天集6月4日 森谷一成、浅海紀代子、釜田きよ子、渡邊美保、辻井こうめ他

香天集6月4日 岡田耕治 選 

森谷一成
太陽の幾つむすぼれ春キャベツ
雨脚を迎撃せんと松の芯
長生きを案じておれば明易し
納豆をかきまぜており梅雨の家 

浅海紀代子
猫の子の遊び切ったる尻尾かな
芥子の花途切れ途切れの記憶にて
参道を鉄路がよぎる桐の花
緑蔭に私の影を足しにけり

釜田きよ子
白蓮に夕闇という終り方
陽炎を出てコンビニに入りけり
箸二本使う生涯冷奴
歯を抜いてしばらく空蝉の気分

渡邊美保
ゆらゆらの歯を抜きに行く麦の秋
海へ出る道をたづねて花蜜柑
薔薇一重開ききつたる夜の紅茶
螺旋階段降り初夏のジャズライブ

辻井こうめ
燕来る花柄ポット遺る家
山法師句碑の親しくなりにけり
薫風や後味の良き人に逢ふ
螺線生むフレアースカート若葉風

佐藤俊
濁り川あめんぼの鬱包みこむ
海月浮く答の出ない独り言
たまご割る黄身体内を流れ出る
いつもの少年声変わりして夏来る

加地弘子
ひと言の後を現れ夏の蝶
なめくじの右の触角一つの眼
花弁を掃く張り付くは放っておく
夏燕指笛で呼ぶもののあり

神谷曜子
ぶらんこや同じ話に飽きて漕ぐ
麦の秋馴染んできたるヘルメット
少し病み河童忌の川覗きおり
面会解禁梅雨空を持ち込みぬ

上田真美
我を見てにわかに母が茄子着ける
終わること悟らせている君の薔薇
そろそろと鱧が恋しい戎橋
蘭の花色うすくして終わりけり

垣内孝雄
串カツをソースに浸し生ビール
ポンと開くラムネの栓や北新地
おもむろに提ぐるバケット夏見舞
ひとつとて励むものありほととぎす

吉丸房江
初もののピース御飯のプチプチと
マスクなき遠足の声かたまりぬ
植えし田の水のかがよう伊都の国
新茶飲む八十八日たぐり寄せ

秋吉正子
飼い犬の血液検査夏に入る
梅雨に入る夜のメニューはあるもんで

川村定子
端居してたった一句が浮かび来ず
梅雨鴉巣から鳶を追い払う
*岬町小島にて。

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