香天集5月21日 岡田耕治 選
三好広一郎
呼ばぬのに仔牛近寄る日永かな
修司忌の死んでも抜けぬ東北弁
風光る校長室の軍手かな
消える虹たぶんスプレーなら描ける
夏 礼子
藤棚を離れ藤いろ濃くなりぬ
春愁タダイマルスニシテイマス
都忘れ寡黙の時を良しとする
待たすより待つことが好きクローバー
釜田きよ子
目薬の苦味がふいに花の昼
花吹雪わたしの罪を軽くする
長生きの途中で摘みし土筆かな
ごみ出しは生き方に似てみどりの日
木村博昭
この町に生きる悦び花水木
くるくると未来より来る春日傘
実直な文字の配列昭和の日
ゆく春の座れば眠くなる齢
砂山恵子
黄昏は影に始まる麦の秋
よく笑ふ鞍馬の少女夏に入る
あやめ立つ楷書の如くまつすぐに
葉桜や生命線は手首まで
嶋田 静
コロナ禍のアンネの暮らし春惜しむ
チューリップそれぞれ国の名を背負う
誘われて散りゆくところ白木蓮
友と我桜吹雪に声うばわれ
古澤かおる
子供の日御座候の十個入り
いつまでも眠れる子等よアマリリス
子を抱く神馬の前へ夏来たる
走り梅雨みそ汁の具をたっぷりと
田中仁美
太陽の塔の手をまね春日向
夫といて誰も帰らぬこどもの日
都忘れ思い出せないことを訊き
メルカリで売ることに決めサンドレス
森本知美
行く春やホウ酸団子手に丸め
梅雨晴間顔に傘差しひと眠り
筍が覗く高速道路にて
ドレミファソ山を奏でる木の葉色
松並美根子
何もかもゆるしておれば春蚊来る
うぐいす餅肝心なもの忘れたる
女生徒の声高くなる夏帽子
ラムネ玉ポンとはじける笑顔かな
前藤宏子
空き缶を拾え拾えと大南風
鰻食ぶ自粛生活解かれし日
泰山木咲く天上の風に触れ
反抗か摘み捨ててある花さつき
木南明子
かすみ草ただ咲いている空の青
蛇苺大きく育つ雨上り
露草の膨らむ母の七回忌
水色の洋服届く母の日よ
丸岡裕子
走り梅雨夜ふかしの果て風呂に入る
身の丈となり実を落とす青梅よ
花桐や古典の言葉香りくる
万緑や重なり会いて迫りくる
金重峯子
春惜しむやすき漢字を辞書で引き
番犬は雀隠れに眠りけり
母の日に帳消しとなるダイエット
あこがれはすっからかんの鯉のぼり
目 美規子
小満の孫に背丈を越されけり
母の日や黄泉に宅配届けおく
街灯の明りを集め薔薇の垣
戦争に走る愚かさ走り梅雨
安田康子
デパートの口八丁の新茶売り
こどもの日ギコギコペダル登りけり
ゴクゴクと水呑む夫よ夏に入る
駅前は焼きたてのパン麦の秋
勝瀬啓衛門
わさわさと街路を揺らす青嵐
新緑の色駆け抜けるオフィス街
病葉を陽に翳し合う子どもたち
陽の香り時節を分ける麦の風
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