2023年6月25日日曜日

香天集6月25日 谷川すみれ、石井冴、夏礼子、湯屋ゆうや他

香天集6月25日 岡田耕治 選

谷川すみれ
戦争から帰ってこないバナナの斑
万緑に裸眼の視力晒しけり
永遠の死後となりたる泉かな
まだ少しこの世にありぬ白牡丹

石井 冴
ずぶぬれの隣家のリラを見ておりぬ
萎れるをモラルとしたり山法師
辛夷の実人の匂いを移しやり
蝸牛大きくなって家を出る

夏 礼子
仲良しの時にいじわる花ざくろ
地酒屋の前で落ち合う花楝
枇杷熟るる呼び覚ましたる記憶にも
ほうたるの闇に落差のありにけり

湯屋ゆうや
仙骨を祭太鼓に震わせる
守宮来てきのふの咎に触れむとす
太鼓打ち聞こえぬがごと太鼓打つ
光るものは壊さずにおく蜘蛛の糸

嶋田 静
アイスクリーム新幹線の旅が好き
姫奢莪に分け入っている水の音
水色の傘を選びし梅雨入かな
紫陽花を活けて実家のこと想う

柏原 玄
晩節の力としたる余花のあり
ぼうたんの花片の主張揺るぎなし
麦の秋老いを踏んばるたのしさよ
紫陽花や一期一会の濃むらさき

河野宗子
行く先はどこ箱詰のさくらんぼ
夏大根少少太りすぎている
紫陽花やスマートフォンが動かない
歯の痛みありて朝の百合の花

砂山恵子
土の香が街の香になり明易し
六月よ綿の香りのする風よ
不確かな世や夕顔の色をして
本当はシャイな人なりサングラス

楽沙千子
対案の浮ばぬ会議五月雨
弟の代に替りて緑摘む
パレードに埋めていたり夏帽子
旅慣れし異郷の娘踊子草

田中仁美
紫陽花やいつまでも咲き変わりたる
冷奴海藻の色てんこ盛り
くちなしの匂いをひとりじめにする
雨おんな二人が集い梅雨に入る

前藤宏子
跳箱を跳べぬ児が増え雲の峰
棘などは気にせず薔薇を剪りにけり
叩かれて叩かれてなお油虫
翻るたびに光となる若葉

森本知美
滴りを見つめていたり吾も水
着ぬままの母のパジャマや梅雨寒し
アマリリス切り挿してあり雨催
園児等の鼓笛若葉の風刻む

松並美根子
黒南風の中を一筋も水の音
独り居の独りの言葉夏椿
アメリカの孫子を想い梅漬ける
好日をたのしんでいる梅古木

金重峯子
久々のおしゃれちぐはぐ夏来る
一人身の楽しさ怖さ夕端居
枇杷七つ推し頂きて供えとす
フェルメールブルーをしたる翡翠かな

丸岡裕子
句を選ぶ目に力あり夏座敷
さあ庭へシミと格闘雲の峰
雨雲にざわついてあり夏の蝶
闇をぬいしづかに迫る百合の香よ

木南明子
青梅の言い訳聞かず搗き落す
朝夕に通る道なり立葵
村中の紫陽花よ咲け明日は晴
枇杷熟れて雀の学校にぎやかに

目美規子
寝不足の思考力ゼロすもも食む
退職者の元気確認柿若葉
七冠の藤井名人夏袴
異国語の甲高き声夏帽子

安田康子
六月の待合いの椅子湿りあり
黒南風やここは難波の高島屋
六月のひと雨ごとの草の丈
窓染むる終のすみかの濃紫陽花

*伊丹市立図書館「ことば蔵」にて。

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