香天集7月16日 岡田耕治 選
石井冴
サーカスの音がして来る白詰草
白南風やミントの味がよく売れて
草の名を勝手に付ける梅雨晴間
蟻の巣の構造を描く自由帳
渡邉美保
青嵐机上に里見八犬伝
ショットバーの扉閉ざされ梅雨茸
肉体の隙間から出る梅雨茸
クーラーのききすぎてゐる仏間かな
柴田亨
かたつむり大仏様の鼻の穴
初恋や風ことごとく白きシャツ
阿修羅仏の前凹みたる半夏生
陀羅尼助夏の峰には夏の雲
三好広一郎
神経の先に火の点く百日紅
瓶詰の蓋のゆるゆる昼寝覚
天の川あら足元は星の殻
板の間を緑陰と思い寝返る
釜田きよ子
遠雷やこの痛みには覚えあり
人間も蜻蛉も乾く音がする
空蝉は耳の形よ水の音
梅雨深しプラスティックの右往左往
加地弘子
茗荷の子採れば採るほど蚊に吸われ
蜘蛛の囲の大破のあとの破行かな
蜘蛛の囲を軽く揺すれる夕餉かな
天道虫ひっくり返ってみせにけり
神谷曜子
サングラスと同じ碧服買いにけり
八月の父の写真に今も問う
生業を忘れさせたるハーブ園
下ノ畑兄の作りし茄子太る
河野宗子
夏灯遠き記憶の新たなる
水色の歳時記に挿し日々草
転がりし箸の行方や夏の夕
白雨来るあきらめているスニーカー
田中仁美
近くとも遠くに感じ百日紅
マンゴーや夫と話す距離を置き
雲一つ映りゆきたり日向水
亡き人の棺に香りパイナップル
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