香天集9月10日 岡田耕治 選
谷川すみれ
八月と最後の砂を持ち帰る
このところ死者の懐かし零余子飯
台風裡鯉は腹より動きけり
新しい空気を広げ花木槿
三好つや子
鉄分の足りぬ顔なりサングラス
つづれさせ英霊の声とも地霊とも
秋桜栞はいつも待つかたち
秋風をマッコウクジラの骨泳ぐ
浅海紀代子
炎昼や潜めるごとく息をする
ひまわりに漂っている疲倦かな
送り盆風の音よりたそがれる
それぞれに居場所ありけり虫の夜
砂山恵子
生きめやもと風の音聞く九月かな
村落は一塊となり夕月夜
長き夜や子犬の中の日のにほひ
たうがらし哀しみのごと尖りけり
釜田きよ子
蛇の衣脱ぎっぱなしを忘れおり
世の中が真っ白に見え昼寝覚
熟年のあとの老年沙羅の花
眼と鼻は通じる仲間秋の風
春田真理子
三界を歪めていたる極暑かな
草を取る小さき骸のありにけり
遠花火知らぬ間に河渡りおり
まるき眼に口一杯の舐瓜かな
川村定子
紫陽花や雫とともに切り取らる
梅雨明ける一座の雲も寄せつけず
朝顔や地蔵の足に巻きすがる
青竹を割りコスモスの一輪を
秋吉正子
天高し廃校を鳴るバイオリン
秋入日今度は何を捨てようか
朝顔を数え一日始まりぬ
無花果と赤飯を持ちおばあちゃん
牧内登志雄
早々に仕度ととのふ月見酒
草野球二死満塁の空高し
八千草を分けて同行二人かな
物の怪のどろろと消ゆる月の裏
北岡昌子
本殿へ向かっていたり蛇の衣
産土の夏藤小さく揺れるなり
風鈴の音色にありし睡魔かな
境内を広くつくつくぼうし鳴く
大里久代
突き刺さる太陽のなか百日紅
台風が日本列島つなぎゆく
白桃やしたたり落ちて手に受ける
垣根より伝うブーゲンビリアかな
西前照子
大きめの麦わら帽子年取らず
墓の前お辞儀している夏の菊
小学校からの親友夏越せず
足を止め夕空眺む秋隣
野間禮子
無花果や紙の袋をかぶせおく
夏野菜雨はまだかと空仰ぐ
稲の花無事収穫の笑顔待つ
朝夕にピアノ流れる夏休み
勝瀬啓衛門
鈴虫や猫の寝息と置き換わり
夕刻の虫の饗宴帰りゆく
黄金に頷き交わす稲穂かな
空を割り雨を呼び込む稲光
*岬町小島の朝焼。
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