香天集9月3日 岡田耕治 選
渡邊美保
炎天にはりついている戦かな
風景の隅つこにある貝風鈴
サーカスのテントを覗く白鶺鴒
ねこじゃらし此岸は崩れはじめけり
玉記玉
青虫の森にはリボン掛けてある
白象の昼を見ている原爆忌
もうひとり私がいても零余子飯
かなかなかな祈りは石に刻まれる
森谷一成
勝馬に見られてしまいサングラス
民間軍事会社てふへんてこ飯饐える
試みの醜きさまよ旱星
繰り返し手を置いてみる敗戦日
浅海紀代子
思い出の干されていたり土用の日
一人居に一日の長し月見草
明け易し消しては書くを繰り返し
たそがれは我が影細る夏の果
佐藤俊
青空に行き止まりあり夏の富士
覚えなき指の傷あり秋湿り
あめんぼの翅あるところ見せたがる
腹中に烏揚羽を養いて
砂山恵子
東京へ嫁ぐ子金魚二匹連れ
ささくれたハモニカの音夏の果
スキップができぬ弟鳳仙花
同じこと言いて笑つて踊の輪
辻井こうめ
神楠に招かれてをり青葉木菟
空蝉の風に抗ふ前肢かな
邯鄲や鉄路眺むる遣唐船
勢いのときにうとまし百日草
安部いろん
新涼を溜めて木の葉の雨雫
蝉時雨下枝だけが風を知る
どっしりと無言のピアノ大西日
幼児の髪台風を近づけぬ
垣内孝雄
片陰にこそり雀の水飲み場
緑さす路地にそひつく石地蔵
薄緋の鳥の声きくにごり酒
げんまんの細きゆびもて秋螢
吉丸房江
一両の電車を通す稲の花
はやも酔う今年の梅酒芙蓉かな
たっぷりと日に焼けている孫の足
ワシワシと追われていたり蝉しぐれ
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