香天集10月1日 岡田耕治 選
玉記 玉
蓮の実泡わずか立て沈みけり
水澄んで紅が痛くてフラミンゴ
狼の夢を覗きに秋の穴
一睡の南蛮煙管のまま果てる
森谷一成
行く夏の備中鍬に漉き込まれ
心柱顫えておりぬ秋の蝉
秋蝶の刺繡この先行き止り
代打より代走が好き草の花
谷川すみれ
あいまいな愁思拠らば飛行機雲
私のコスモスから君のコスモスへ
もみづるや橋の途中の潦
選ばれし者の碑桐一葉
浅海紀代子
立って飲むラムネよ空の下りてくる
踊見の路地の暗きに戻りけり
山鳩の声のくぐもる秋暑し
とんぼうに浮遊の心預けおり
夏 礼子
右耳の風よ左のつくつくし
秋扇黙が揺らぎとなりにけり
虫の声無人踏切わたり合う
秋風やこころ無頼でありつづけ
佐藤 俊
ましら酒戦後と言うはどのいくさ
秋の日の爪ひたすらに伸び続け
ちちろ鳴く人の世の穴深くして
地にひそむ蟋蟀時に人の顔
辻井こうめ
記名入りの代本板や夏休み
列島の茄子の浅漬け茶漬け飯
秋の空遺品何から始めけむ
獣脚類生れし処今年米
湯屋ゆうや
妹も同じ日に炊く栗の飯
戦争は終わったのかと処暑の父
日曜と名のつく日あり秋の晴
団栗は黒い机の節穴へ
柏原 玄
「おはよう」の弾む秋立つ日なりけり
六林男の碑過りて父の墓洗う
ゆったりと生きているなり花芙蓉
疲れたら「六林男の視線」秋灯
宮崎義雄
霧の音大きく山の雨あがる
秋高しパンクを修理しておれば
太刀魚の浮子ぼんやりと沈みけり
林道を占めはじめたる薄かな
松並美根子
敬老日忘れたくなきこと忘れ
真っすぐの道まっすぐに稲穂波
手を取りて笑顔のふたり水引草
手花火の少し日暮れを待ちにけり
岡田ヨシ子
この先は右か左か秋の暮
長生の初めて出会う秋暑かな
雑草に姿を消しぬ彼岸花
花薄色に迷いて筆洗う
森本知美
無花果の憤懣ジャムに煮込まれる
案山子たち着替えて明日は日曜日
木に残る栗と見ている紀伊水道
竹春の雨に撓いし飛沫かな
前藤宏子
青空の中へ蜻蛉も飛行機も
覚えたいことだけ覚えとろろ汁
一世紀生きてみたしと星月夜
友の訃を友に伝えて花芒
丸岡裕子
ふらり来る秋の黄蝶追うてみる
秋祭待つ紅白の捩り幕
震災忌百年前の熱き風
水漏れの難を横目に秋桜
金重峯子
満月や気がかりの無き一日なり
持ちきれぬ不安そのまま夏の果
祝うより祝われる日に敬老日
花は姫実は鬼角のオクラかな
垣内孝雄
風の日のウッドデッキに来る小鳥
しもつけの色の濃きもの薄きもの
気まぐれに求む仙人掌花ひらく
ひとときにはゆる黄をもて秋の蝶
吉丸房江
日々草今日も元気に日々草
つゆ草のただひと朝の青の色
育てたる秋茄子どうぞ召し上がれ
満月や銀の光の声がする
安田康子
天高し尻尾も食べる海老フライ
長き夜やベッドの上のストレッチ
進みたる分針合わす秋の夜
長き夜や歯磨時間ゆるゆると
木南明子
朝露や雨蘭の白の光り合う
蜘蛛の糸張りめぐりたる優越感
空青し競って育つ糸瓜の黄
祭笛にわかに村の沸きあがる
目 美規子
枝豆の塩加減良し自画自賛
秋袷着こなしているジャズライブ
ナンバーはぞろ目の外車敗戦日
幼子のはにかむしぐさ赤とんぼ
*鳥取県倉吉駅にて。
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