香天集10月22日 岡田耕治 選
渡邉美保
走り根の太きを踏めば小鳥くる
鏡花忌の空の奥より緋連雀
言霊を宿すなんばんぎせるかな
椿の実幼きうそを聞いてゐる
辻井こうめ
金木犀読み止しの本初めから
小鳥来るハンドクリームたっぷりと
天高し碑の文字撫づる杉穂かな
衝羽根を女将が手折り空廻す
木村博昭
いちじくを節榑立ちし指で裂く
底紅や長男次男来ていたる
ハイヒールこんな処にいぼむしり
亀虫と仲良くなりし日暮れかな
楽沙千子
羽のあるものの集まり百日紅
旧姓のままの物差夜仕事の
とんぼうの割込んで来る立話
親指を反らし丹波の栗を剥く
砂山恵子
小雨かと手を出してゐる秋遍路
残る虫宇宙のはじめ語ろうか
夜学の子プリントの香が好きという
かがみたる我が膝丸し菜を間引く
宮下揺子
夏蝶のメトロノームのように飛ぶ
薄荷水言いたいことを書いておく
オルガンのフカフカと鳴る休暇明け
子供等に死生観あり破柘榴
神谷曜子
直線と曲線が舞う風の盆
はらからの皆老い笑う曼珠沙華
立ち止まりたくて案山子の前に居る
秋茄子息子居そうな蔵の音
古澤かおる
八割れのクリムトの猫後の月
弟に分ける通草をもう一つ
新しいボディソープと秋に入る
風止まるたった今稲刈り終わり
河野宗子
秋祭太鼓かけ声遠ざかり
今日のこと奏でとなりし虫の声
草を刈り柿の木の道現れる
横たわるみかんの木にもみかん成る
岡田ヨシ子
長く生き里に未練の秋の海
朝寒やデイサービスの服選び
台風の養生テープはがしけり
切りし枝あれば入賞菊花展
田中仁美
夜行バスたどりつきたる露の街
熱高し窓から見える秋の月
炊きたてのLINEで送る茸飯
名前訊くグーグルレンズ草の花
勝瀬啓衛門
甘干や一皮剥けて身を絞る
鈴生りのままに空家の富有柿
アスファルト金木犀の花溜まり
この声に気付きたるかな柿の秋
*大阪市法善寺にて。
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