香天集4月21日 岡田耕治 選
三好広一郎
ポイントの無くても生きて囀れり
春キャベツ私を抱いてくれないか
春やわわ大草原にマヨネーズ
恐竜の骨琴冴える五月来る
中嶋飛鳥
ゆきずりの肩を並べて遅桜
俯瞰する渦を出られぬ花筏
西東忌リードの長さいっぱいいっぱい
傍らに寡黙でありぬ牡丹の芽
木村博昭
てらてらと信楽たぬき春日享く
各駅に停まる日永の海辺かな
黄砂来る仏舎利塔は闇の中
チューリップ自分で出来るようになり
楽沙千子
靴音のついてくるなり沈丁花
思い込み直さず朧月夜かな
花冷えの綻びてきし三分咲
木瓜の花終の住家としておりぬ
嶋田 静
濡れ行けり降りては止める花の雨
おろうそく幾度も消す花の風
花吹雪両手で受けておりにけり
雑草の名前に春を教わりぬ
勝瀬啓衛門
花明り目と目を合わし居たりけり
散る散らぬ空もだらだら花曇
キーボード探る指先新社員
餅草や忘れた頃の腰の丈
西前照子
観光客見送る姿猫柳
おぼろの夜鍵穴照らすペンライト
軒下に今年も一つつくしんぼ
〈選後随想〉耕治
ポイントの無くても生きて囀れり 三好広一郎
この句を最初に見たとき、「ポイント」を買い物をしたときにカードに付くポイントを想起してしまい、別にポイントがなくても暮らしていけるという程の意味かなと思った。ところが、句会で辻井こうめさんが、この句のポイントというのは、目立つ場所とか定点という意味だと解釈してくれたので、一気に読みが広がった。春、何もポイントがないような場所で、さまざまな雄鳥が雌への呼びかけを行う様子が浮かんできたのである。ヒトの子育ての中では、心理的安全性が大切で、安心して見てくれている定点があるから、いろんなことにチャレンジしていけると言われている。その説から読んでいくと、「定点なんてなくても生きていけるし、恋もできるんだぜ」、そんな広一郎さんの内なる声が聞こえてくる一句だ。
*岬町小島にて。
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