香天集8月25日 岡田耕治 選
三好広一郎
このページだけをください夏休み
カーテンを引く夕焼けが付いてくる
夕焼けを一平米買う金魚かな
炎天や曲がりなりにも飯が食え
木村博昭
公道へ少しはみ出し梅を干す
くろがねの肉体撓うダイビング
ノック受く声の日焼けておりにけり
水筒を持ち歩く子ら原爆忌
釜田きよ子
西瓜ならいつも浮かんでいた井戸よ
物減らす少し涼しく生きるため
空蝉の真上鳴き出す蝉の居て
花合歓やかくも静かな古墳群
神谷曜子
大陸を移動する雲パリー祭
検査日の乳房つぶされ秋暑し
月よりの使者を待つ子に読み聞かす
失せし猫銀河の中を見にゆかん
玉置裕俊
玉音後日本守りし占守島
新盆にお供え多し仏縁や
施餓鬼寺お布施の額を唱えけり
本土の陽ハイビスカスは耐えられず
吉丸房江
鉄線花どっこいここに生きている
ご先祖も卒寿も入り盆踊り
南海トラフ頭を働かすお盆
合歓の花そのやさしさは日中も
川村定子
結界が阻み桔梗に届かぬ手
向日葵の高さを競う向きのあり
オリンピックルールを知らず手を叩く
稔りたる棚田を渡り雲の影
西前照子
淡路航路鱧の料理が客を待つ
初蝉や伊勢の獅子舞来たるらし
燕の子翼バタバタ風を呼ぶ
まんまるに整えられしつつじかな
大里久代
数えおく三十八のツバメの巣
炎昼の作品展の座談かな
私に負けずに咲いて百日紅
何よりも笑顔集まる盂蘭盆会
川端勇健
夏の島海にぽつんと浮いている
突然の雨だ花火はお預けに
川端大誠
好天の風吹きわたる夏の海
川端伸路
アジを釣りすぎて全部は食べれない
〈選後随想〉 耕治
カーテンを引く夕焼けが付いてくる 三好広一郎
日常的な行為である「カーテンを引く」という動作に、夕焼けという一日が終わろうとする時間帯の美しさが結びつくことで、日常の中に現れる特別な瞬間を印象的に切り取っている。「カーテンを引く」という行為は、その日の出来事に区切りをつけ、新たな一日を迎えるための準備をする動作だ。「夕焼けが付いてくる」という表現は、開いていた窓の開口部が狭くなることによって、より強くその光りが部屋の中に入り込んでくる様子だ。広一郎さんは、どんな早さでカーテンを引いたのだろう。鋭い音を立てて引いたのであれば、腹立たしいことがあったのだろうが、ここでは人生の一日を惜しむようにゆっくりと引いていくイメージが浮かぶ。この視覚的なイメージの程良さが、読み手に夕焼けの残像を残してくれる。
*岬町小島沖にて。