香天集8月11日 岡田耕治 選
三好つや子
少年の目になる行司蜘蛛相撲
棒アイス小さな嘘が飛び火して
羽蟻に内部干渉されており
解き方にそれぞれの癖青胡桃
春田真理子
藪萱草農婦の貌してをりぬ
曼陀羅の方へ青羊歯分け行けり
かなかなや床ずれの穴谺せり
薄紙に包み他界へ月見草
加地弘子
サングラス外し幼き子を抱く
いつまでも流れに乗れず精霊舟
さくらんぼ四等分のラッピング
花蜜柑妣が帰りたかった島
前塚かいち
水槽の鱧帰りたき淡路かな
サンダルに任せて島を歩きおり
涼しさをたずねる猫の家出かな
小さき実の幸せを寄せななかまど
牧内登志雄
誰がために膝折る八月十五日
八月を語らぬままに考と妣
採血の窓に涼風ありにけり
西瓜食ふ種出す人と出さぬ人
古澤かおる
八月のカバを転がしゾウの鼻
南東の最上階に大西瓜
箱庭に最も小さきマトリョーシカ
クッキーの欠片ティッシュに秋隣
川村定子
夕方の我が家を越えて虹の立つ
五月雨に消えてゆきたる山の禿
押して引く箪笥の軋む五月雨
梅雨の中見知らぬ花を引き残す
大里久代
ミニトマト十八個とも赤くなる
足止まるバックしていく青大将
梅の実がコロコロ落ちる通学路
父の日に五人の笑顔揃いけり
〈選後随想〉 耕治
かなかなや床ずれの穴谺せり 春田真理子
夕方からはじまった蜩の声が、「床ずれの穴」の中に谺しているという、はっとする瞬間を捉えている。「かなかな」の鳴き声が、病床という非日常的な空間で、しかも「床ずれの穴」という痛みを伴う具体的な描写と結びついている。寝たきりになった人を抱き起こして、絞ったタオルで体を拭いていくとき、穴になるほどの床ずれが見える。その床ずれの穴に谺するように蜩が鳴いているのである。命を見つめ、命を慈しもうとする春田さんの書き方に共感する。
*岬町小島にて。
いつまでも流れに乗れず精霊舟 加地弘子
返信削除とても素敵な句だと思いました。精霊を鎮めるために流す灯籠舟。でも、まだ魂の彷徨う舟がある。先立った子供の魂が、両親のやさしかった眼差しを求めているのかも知れない。