香天集11月10日 岡田耕治 選
三好つや子
秋深しえんぴつの木の物語
蔦紅葉オカリナみたいな人と会う
柿すだれ私の中の母の指
秋刀魚焼く昭和の空が振り向いた
佐藤静香
ハードルを超ゆる筋肉天高し
砲丸のどすんと着地秋澄めり
白菊やたましひ城にしづまれり
露日和剝落著き仁王像
春田真理子
蟻を追う小さき眼にある世界
青天の一片を切り柿を穫る
鈴緒振り清秋の天揺らしおり
紅葉ふる高足駄の音すなり
砂山恵子
笑ふのに理由はいらぬ新走
白萩やかつて行幸ありし寺
新米と楷書で書きし宅急便
虫集くコピーの束の淡き熱
秋吉正子
野地蔵の帽子に夏の続きけり
コスモスの風よ良き日になりそうな
本当のことは言えない彼岸花
五年ぶり秋刀魚定食待っており
岡田ヨシ子
秋桜テレビの前に鑑賞す
秋日和海岸行きのバスが過ぎ
麦を蒔く遠き思い出母の歳
冬隣半袖姿通りけり
牧内登志雄
昨日より秋を濃くする朝かな
江戸前の尻端折りや鴨の陣
ほろ酔ひで担ぐ熊手の稲穂かな
香り立つモカコーヒーや霜の朝
川村定子
供ふ物なきに我が家の月明り
かなぶんの足の動くに塵箱へ
秋ともし胸の上にて指を組み
秋の蝶憩わずに草渡りゆく
大里久代
虫の夜画面に母校映りけり
一箱の梨が届きぬおすそ分け
バクラ編むクラフトテープ夜長し
これ以上浮かばなくなる彼岸花
北岡昌子
文化の日あの世に住みて五十年
地車のヤソーリャソーリャと駆け抜ける
新米の届くをずっと待っており
松茸の味も香りもよく噛んで
西前照子
カレンダー千切り残暑の過ぎゆくか
手作りの月見団子を供えけり
塗り椀に沈めし月見団子かな
彼岸花咲くを待ちたる風のあり
〈選後随想〉 耕治
秋深しえんぴつの木の物語 三好つや子
秋の深まりは、一年が終わりに近づき、自然が休息に入る様子を連想させる。そこにつや子さんは、「えんぴつの木の物語」なるものを置く。鉛筆になるために伐採された木は、長い年月をかけて成長し、様々な経験をしてきた。その木の生きた証を、私たちは鉛筆として手にすることになる。鉛筆はまた、私たちのアイデアや感情を形にするための道具だ。鉛筆というモノを通じて、私たちが創造性を育み、表現してきた営みを暗示しているにちがいない。
*岬町小島にて。
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