2024年12月1日日曜日

香天集12月1日 辻井こうめ、夏礼子、谷川すみれ、森谷一成ほか

香天集12月1日 岡田耕治 選

辻井こうめ
引き返す小犬もゐたり秋日和
鳥ひよいとぶらんこになる木守柿
どんぐりのアフロ・トンガリ帽転ぶ
ご機嫌な双子のバギー秋桜

夏礼子
一途とはこの白曼珠沙華の線
ときどきの淋しさが好き紫苑かな
本降りとなる紅萩の揺れはじめ
野紺菊母呼ぶ声のかたちかな

谷川すみれ
袋ごと蜜柑をもらう別れかな
椎落葉掃くことだけを分け合いぬ
枯芝のふわふわ父に会いたきよ
夫婦とはセーターほどの心持

森谷一成
ひょんの笛あなぐる眼鏡上下して
銀杏散る埴輪の兵に駒つらね
初時雨チェーン外れて仕舞いけり
ラグビーの黝きあと今日終る

中嶋飛鳥
文末を括らずにありつづれさせ
人間と生まれ勤労感謝の日
冬の月語りだしたるされこうべ
片時雨素描の顔の泣きだせり

浅海紀代子
日月やそれぞれの背に荻の風
ひとつ為しひとつ忘れて秋の暮
草の花晩年の身を軽くする
おでん鍋ふつふつ余生沁みにけり

柏原玄
夕暮れて位置につきたる白粉花
少年や炒リ喰らうべく蝗取る
鶏頭の暗きタべを残しけり
真っ先に見届く投票箱の空

釜田きよ子
すすき芒誰もが火種隠し持つ
冬夕焼け我ら等しく包まるる
人間に沁み込む月のDNA
いいともさいいともさとて枯葉舞う

俎 石山
黄落の背表紙にある君の名よ
秋深し隣の猫が落ちる音
仏壇に手を合わせたり鹿の声
行く秋の耳をすませば水の音

佐藤俊
わがまちの未明の逡巡冬薔薇
電波時計の逆回りする夜に怯え
体内に異物の感触冬立つ日
冬菫路傍の真実けとばして

石橋清子
雨上り二回目に咲く金木犀
久しぶりの太った秋刀魚御数とす
笛太鼓迫りて来たる秋祭
丈長き自慢の糸瓜抱きしめる

中原マスヨ
さつまいも送ってくれし義父が逝く
ほうき星見つけられずに海の道
急ぎ帰る車窓の外にいわし雲
いつからの出番となるやカーディガン

木南明子
千日紅花束にして友を訪う
残月や買物一つ忘れたる
鯖雲やあれやこれやと物忘れ
トーストを焦がしてしまう寒波かな

前藤宏子
トーストの裏の白さよ冬に入る
憂い事浮かんで消える初時雨
小中の校舎をつなぎ花八つ手
店先にちらほらポインセチアかな

河野宗子
秋灯活字の海におぼれおり
秋空の雲と一緒に薬飲む
釣りたての紅葉鯛との夕餉かな
ビンの蓋開けられなくて虫の声

金重こねみ
文化の日思いっきりの空の青
小さくとも二尾のパックの秋刀魚かな
脳トレのクイズが解けず夜食かな
みかん食む一房ずつのお壺口

森本知美
天高し体力年齢四十歲
コスモスや若く写して欲しい顔
破芭蕉歳を引きたき誕生日
山里の夕焼チャイム紅葉照る

丸岡裕子
駆け抜ける紅白の幕秋祭
雨上がり銀杏黄葉の濃くなりぬ
秋深む万葉人となり歩く
さざんかや海を遠目に夫はるか

松並美根子
金秋のお目出たき日の涙かな
文化の日組紐に受く優秀賞
思い出の身辺整理水引草
冬夕焼人それぞれの思いあり

松田和子
草紅葉なお愛おしく足とめる
冬紅葉青眼になるや金剛蔵王
凩やいたずらっ子と波飛沫
山門のもみじにのばす手の漫ろ

目 美規子
枯草に大の字となり虚空見る
若づくり隠せぬ皺と木の葉髪
方言の飛び交う集い神無月
顔洗う猫の仕草や冬浅し

吉丸房江
新米の良い子を産めと塩むすび
我が里を孫に誇るや筑紫富士
精一杯生きた証の紅葉かな
木犀の香り隣の隣より

〈選後随想〉 耕治
鳥ひよいとぶらんこになる木守柿 辻井こうめ
 小鳥が木に残っている柿の実をブランコのように揺らしたという、こうめさんの豊かな想像力と観察眼が光る。「ひよいと」という言葉の選択も、軽いのに写実的だ。「木守(きまもり)」は、翌年への実生りへの祈りからとも、あるいは小鳥のために残しておくともいわれるが、古来自然との共生をなしてきた一つの名残りであろうと、『角川俳句大歳時記』にある。これを踏まえると一句は、人間がなした「共生」を小鳥が喜んでいるようにも感じられる。秋から冬に向かう「木守柿」と、小鳥のかわいい仕草の対比が、季節の移ろいと命のよろこびを鮮やかにしてくれた。
伊丹市立ミュージアムにて。

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