2024年12月15日日曜日

香天集12月15日 渡邉美保、柴田亨、三好広一郎、松田敦子ほか

香天集12月15日 岡田耕治 選
渡邉美保
侘助や重心低く息を吐く
霜の夜の仕舞い忘れの脚立かな
マフラーの巻き方人の別れかた
枯れてゆくものに雨降る近松忌

柴田亨
青空や手編みセーター重すぎる
伐り株に三角ポール立てて冬
冬あかりかそけき色のあたたかさ
冬銀河静寂を渡る神の息

三好広一郎
モザイクをとれば悲鳴や十二月
マラソンの最後尾から寒卵
水道がぽたぽた弛む風邪薬
クリスマスの椅子ケーキが欲しいだけ

松田敦子
冬薔薇損する人とささやかれ
煙突と煙の隙間枯木立
空風や紙飛行機の羽の反り
白息や車両傾く始発駅

上田真美
目がぎょろり母のちぎり絵巳年待つ
冬の朝月へとペダル踏み込みぬ
冬鷺や堰に並びて口開ける
落葉踏み細径を取る人力車

小﨑ひろ子
冬の朝地にぴぴぴ舞ふスポーツ紙
しみじみと蜆をすする少女かな
竹林を鳴らす秋風なまなまし
死ななくてよかったですね神有月

釜田きよ子
病院のことに大きなクリスマスツリー
掃き寄せし落葉一気にさらう風
極楽と思い炬燵にもぐり込む
着膨れて令和の顔になり切れず

楽沙千子
焼芋の決め手は匂い窯から出す
照り陰り冬日もしばし斑のあり
草虱風を通さぬ空き家増え
葛折上るほど濃き紅葉かな

大西孝子
海渡るアサギマダラの優雅かな
酔芙蓉風に誘われ紅を増す
冬隣我を忘れて墨匂う

〈選後随想〉 耕治
青空や手編みセーター重すぎる 柴田亨
 手編みのセーターは、貰ったときは嬉しいが、年数が経ってくると重たくなってくる。澄み切った青空の下へ出掛けようとするとき、この手編みを着ていこうかどうしようかと迷っている。青空の開放感とセーターの重みの対比が、心の葛藤や複雑な感情を象徴している。例えば、心の重み、過去の思い出や抱えている悩みなどが表現されているのかも知れない。柴田さんならではの一句だ。
 
モザイクをとれば悲鳴や十二月 三好広一郎
 モザイクは、通常美しい模様や絵画を連想させるが、ここでは隠されたもの、あるいは過去を象徴しているのかも知れない。そのモザイクを取るのだから、何かが明らかになる瞬間を切り取っている。モザイクの下に隠されていたものが、悲鳴をともなって現れるのだから、その発見が衝撃的なものであることがわかる。十二月という季節は、一年を振り返り、新たな年を迎えるという転換期。この季節に、過去の出来事が再び浮上し、心の奥底から悲鳴が上がるという状況が想像される。モザイクの下に何が隠されているのか、なぜ悲鳴が上がるのか、読者を謎解きの世界に誘う三好広一郎さんの手法だ。
*国立国際美術館にて。

0 件のコメント:

コメントを投稿