香天集2月9日 岡田耕治 選
三好つや子
液体と気体のあわい日向ぼこ
寒月光顱頂に蛇の眼かな
濃く淡く人の声する雛の夜
甘噛みの時間のまなかチューリップ
佐藤静香
逆さまの世界に遊ぶ海鼠かな
牡蠣つるんなかったことにしておこう
蓮糸の秘めごと包む春ショール
鳩の首回りて春日煌めかす
春田真理子
外套の母に包まれ歩きけり
鉛筆のはがきが届き福寿草
一合の米を研ぎをり寒月光
寒月光百日の児の瞳にも
牧内登志雄
無住寺に鳩の遊べる春日かな
春寒や最終行の句点打つ
朝餉とす一汁一菜花菜飯
一花挿すたちまち春の来たりけり
松田和子
小夜時雨朝日を受ける水の玉
氷見の市鰤しゃぶしゃぶと舌でとる
山茶花や散りくる赤の垣根越し
冴え返るぜんざい二杯顔に当て
岡田ヨシ子
仲良しの二人を亡くすどんどかな
魔法瓶開いてホットコーヒーを
日向ぼこ脳体操のペンを持ち
父母の思い出となる布団かな
金淳正
みなにあうしきじたのしみ年新た
雪あがりしきじへむかう幸せよ
春さむをしきじに来たよあとなん年
黄水仙しきじをまなぶえがおかな
〈選後随想〉 耕治
逆さまの世界に遊ぶ海鼠かな 佐藤静香
久保さんもぼくも上六句会で特選にいただいた句。久保さんから「入りし」というところが気になると指摘があった。それを「遊ぶ」とされた静香さんに、拍手を贈りたい。句会の席上、われわれだけでなく、三好つや子さんの選評が印象的だった。つや子さんは、幼い頃よく家の人に頼まれて、「ナマコちょうだい」と買いに行って、袋に入れてもらった海鼠の姿が忘れられないと、そんな記憶を呼び覚ましてくれる力が、この句にはある。しかも、「入りし」ではなく、「遊ぶ」としたことで、海鼠が愛嬌のある生き物として浮かんでくる。「逆さまの世界」だから、日常とは異なる非日常的な世界が、読む者に新鮮な力を与えてくれる。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
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