2025年2月2日日曜日

香天集2月2日 森谷一成、辻井こうめ、俎石山ほか

香天集2月2日 岡田耕治 選

森谷一成
そのことは子に肖らん年の酒
着ぶくれの双眼鏡を覗きおり
皸の裂けたあたりをうろつきぬ
蜿蜒と横にちぎれる寒さかな

辻井こうめ
暁や素の色もどる凍豆腐
冬の滝純正の白創りたる
一冊の洋書窓辺へ花ミモザ
入園の袋ひらかな刺繍糸

俎 石山
冬の日が君に言わせるもうあかん
接吻と湯豆腐にある辛味かな
大晦日誰に聞いても知らぬ歌
湯豆腐を掴めし指よ齧りたし

楽 沙千子
糠漬を最後に終えて年迎う
足繁く通う図書館姫椿
日溜まりの作業捗り寒の内
ヘッドフォンかけて見ている寒夕焼

河野宗子
侘助の俯いている白さかな
初雪や踊りのしばし止みにけり
段ボール箱を積み上げ年の暮
冬薔薇ぽつりと一枝咲きにけり

田中仁美
泣きながらミルクを飲めり寒の入
座りたる毛布を膝にストレッチ
初雪を目で追う赤子腕の中

松田和子
年老いて加護を願いぬ去年今年
目を細め初日を祝う幼児よ
南天の実に託しおり夫のこと
双六の箱根駅伝一文字

秋吉正子
初みくじ今年も吉に安んじる
新成人袴で投げるボーリング
虎落笛中に電車の音を聞く
門松が風に吹かれる無人駅

西前照子
来年は実れと柿を剪定す
クリスマス明かりを点けて一人なる
蟹鍋をつつく七人大晦日
医者を出てイルミネーション点灯す

大里久代
立冬の立里荒神弾む息
冬の朝大師堂から掃き始め
小春日に内宮さんの幕上がる
初観音般若経にて加持受ける

北岡昌子
初春に集まってくる笑顔かな
遠方から茅の輪をくぐる師走かな
どんど焼き聞きつけてくる参拝者
初明り如来の鎮座していたり

〈選後随想〉 耕治
蜿蜒と横にちぎれる寒さかな 森谷一成
 「蜿蜒と」とくると、「蜿蜒とカラオケ俳壇去年今年」という鈴木六林男の句を思い出す。師系の一人として、この「蜿蜒と」を使ってどう書くか。一成さんは、「寒さが横にちぎれる」とした。まず、寒さが蜿蜿とちぎれるというのは、厳しい寒さが広がっていくイメージがある。次に、その寒さが「横にちぎれる」のだから、まるで自分が寒さそのものになって、布のようにちぎれていくように感じられる。この、厳しい寒さのひろがりを連続として捉える書き方に共感する。

*岬町小島にて。

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