香天集3月16日 岡田耕治 選
柴田亨
袱紗にて預かりしもの春時雨
傷つけて傷ついている早春賦
学校へ行きたくないと言う余寒
恐竜の子孫が来たり日向ぼこ
三好広一郎
朧月釉薬纏い妻眠る
春眠や寝釈迦がどうかしていたる
裸にはなりたがらない筍を買う
シンバルや天井からの春埃
渡邉美保
啓蟄や絵本飛び出すトリケラトプス
前世よりの縁ありけり葱坊主
骨相を学び始めし蛙かな
入眠の角度違える流氷期
佐藤静香
戦争と無縁に生きてきて朧
眼球裡春オーロラを泳ぎけり
梅が香や白杖の鈴朗らかに
初蝶の猫の襲撃かはしけり
平木桂子
永らへて恥多かりき兼好忌
啓蟄のペディキュアをする素足かな
桜草秘め事ふはり楽しみて
俯けばかすかに笑い落椿
前塚かいち
冬林檎八等分を分かち合う
菜の花や祖母・母・吾が疎開する
半島の泥の中なる雛人形
人災も天災も見し雛人形
上田真美
枯野原幼き草が背伸びする
老いてゆくプラットホーム雪の朝
蝋梅の甘く風吹くところかな
読む度に泣くことのあり春の雪
牧内登志雄
電柱に【津波ここまで】冴返る
トロ箱のゴム手袋や春日向
草踏めば足裏にしかと春の音
日向雨肩寄せている猫柳
〈選後随想〉 耕治
袱紗にて預かりしもの春時雨 柴田亨
「袱紗」は、お金を包むばかりではなく、大切な贈り物にかぶせるもの。何か大切なものを袱紗をかけて預かったということだが、どんなものを預かったのか具体的に書かれていないので、様々な想像が可能だ。具体的なものかもしれないし、自分の先輩なり知人が大切にしてきたこと、そういう目に見えないものかも知れない。時雨は冬の季語で、ぱらぱらと降ってはやんでわびしさをともなうが、春時雨はそんな時雨にも明るさが伴う。預かったものを大切に思う柴田さんの思いが滲んでいる。
朧月釉薬纏い妻眠る 三好広一郎
大阪句会で、愛妻家であるとか、静かに眠っている、この世のものではない眠りというような、様々な解釈が出た句。久保純夫さんが、釉薬というのは焼き上がってみるまでどんな色になるかわからない。「美しくて怖い」俳句だと評価された。朝起きた時、妻がどんな機嫌になっているかわからない。夫としては、安らかな朝を迎えて欲しいという、そんな願いを込めて見ているのではないか。広一郎さんの「釉薬」という言葉選びが光る一句。
*岬町小島にて。
0 件のコメント:
コメントを投稿