香天集3月9日 岡田耕治 選
春田真理子
冬牡丹良い歯が生えてきますよう
雪を掻く一掬ひづつ山遥か
侘助の内向の口開きけり
隧道を抜け菜の花に包まれん
三好つや子
梯子を登る仕掛人形梅日和
黒板を仮説が行き来する日永
縁側のここから先は春の闇
ふらここの少女にふっと風切羽
浅海紀代子
会いたいと一行加え春隣
こののちも独りの呼吸梅真自
紅梅や体一つをねぎらいぬ
紅椿紅を尽して落ちにけり
河野宗子
コーラスの扉の向こう牡丹雪
老梅に穴ありハート形をして
浮氷六三園で思い断つ
浮かれ猫ときには檻の中に居て
北橋世喜子
初電車乗り込んでくる車椅子
ざわざわと白衣の過り冬椿
ごまの香やごまめ連なる箸の先
大きめの家計簿を買う年始め
中島孝子
樏の踏み登りゆく跡のあり
新雪や一足ごとを響かせて
雪深し白川郷に勤めし日
一日は味噌二日はすまし雑煮かな
上原晃子
冬帽子すつぽりかぶりおちこちへ
粕汁に家族の顔のほてり出す
青い空初声として許しけり
ともし火のほのかになりし初詣
半田澄夫
天に向け合掌したりシクラメン
熱燗や人それぞれの来し方に
太箸で挟む黒豆抱負込め
サッカーの応援の母息白し
橋本喜美子
一羽づつ増え行く鳥や初御空
千歳経る観音像や冬紅葉
子が走り母が声掛けいかのぼり
久々に声聞いている初電話
石田敦子
シナモンティー香り一息年惜しむ
シュトーレン少しづつ食べ聖夜待つ
弟より貰つていたりお年玉
初暦災いのなく始まりぬ
東淑子
聖歌ひとつポインセチアに口ずさむ
初空に合わせて登る八幡山
みぞれ軋む国道二六号線
寒空にこっそり走る猫のあり
〈選後随想〉 耕治
侘助の内向の口開きけり 春田真理子
侘助は、一般的な椿と比べて、花が小ぶりで、開ききらないのが特徴で、「侘び」のイメージに通じている。この「内向の口開きけり」という表現は、侘助の花の特性を見事に捉えている。「内向」という言葉は、花が内に秘めた美しさや、ゆっくりと開いていく様子を表している。もちろん、これは花のことではなく、真理子さん自身でも、また近くに居る人でも、重い口を開いたと読むことも可能だ。寒さの中で、侘助の花がひっそりと、しかし確実に開いていく様子に、次の季節への希望を感じることができる。同時に雪掻きの句もあるが、真理子さんの住む富山も、雪解けが進んで行くだろう。
*岬町小島にて。
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