2025年12月7日日曜日

香天集12月7日 佐藤諒子、佐藤静香、高野旅愁ほか

香天集12月7日 岡田耕治 選

佐藤諒子
白菊やタクトを振れるピアニスト
立冬の滾る湯光り魔法瓶
短日の木洩れ日の揺れ修験道
日の匂い風の匂いの枯葉かな

佐藤静香
AIに不純のあるや海鼠食む
EUSに腹探られし雪女郎
寒鯉の泡ひとつ吐く恋心
冬欅人格のある老の骨

高野旅愁
ゆっくりと地平老いつつ能登の地震(ない)
震災の妙にやさしい邦雄の書
泪より見るもの無くて冬の雨
平面で背中貼りつく直(ひた)と海

俎 石山
オリオンに手を合わせたり髪白し
差し色にピンクを選ぶ小春かな
さくらんぼ含む唇毒を吐く
大花火君と見紛う顔のあり

牧内登志雄
月よりは三歩で来たる白狐
葉牡丹の重なる業の深さかな
初雪や奥宮までの二百段
玉砂利の静謐に聞く雪の声

吉丸房江
夏掛にまるまっている夜明け前
記念樹に七十七の実の梅酒
二百十日事無きを田の手柄とす
父母在さば今も行きたき熟柿かな

〈選後随想〉 耕治
日の匂い風の匂いの枯葉かな  諒子
 目の前にあるのは、カサカサになった枯葉の山。作者はその枯葉を掬い上げたのだろうか。それには、単なる枯葉の匂いではなく、これまでその葉が浴びてきた「日の暖かさ」と、吹き抜けていった「風の香り」が感じられた。「日」も「風」も、本来形がなく匂いもないものだが、「日の匂い」「風の匂い」と畳み掛けることで、乾いた枯葉の香ばしさや、冬の澄んだ空気感を直感的にイメージすることができる。諒子さんのこのシンプルな表現に学ぶことは多い。
*約束に委ねていたり枯木星 岡田耕治

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