2026年4月19日日曜日

香天集4月19日 三好広一郎、柴田亨、湯屋ゆうや、谷川すみれ他

香天集4月18日 岡田耕治 選

三好広一郎
春めくや錆びたペンチの開脚す
砂ゴムや汚染拡がる春の湾
トアロード出合い頭に昼の桃
蛇穴を出づ眼力を回復す

柴田亨
藤の根の力強さよ祖母の息
落花ひとつ無常の闇に咲いており
穏やかに白へと還る紫木蓮
精霊の寂しき集い花筏

湯屋ゆうや
夕桜切干大根炊き始む
綿飴を顔前に立て花明り
フルートの人と憶ゆる花楓
子が描けば美しくなるクロッカス

谷川すみれ
光悦寺四百年を芽吹きけり
一病を守る湯気甘し桜餅
春陰をおよぐ首相の首飾り
春分や行くよりほかになき鞄

木村博昭
春泥を浴びてゴールを守り抜き
あたたかし駅のピアノに鳴る拍手
春分の地球儀あくびしていたる
率直に幸せというチューリップ

佐藤諒子
揚雲雀黒土動く気配のす
春日影バイオリニストのうす目にて
子の瞳何かささやく春の風
菜の花やふるさとの山見失う

上田真美
シャボン玉身体くの字にして吹く子
花の宴酒の肴にされている
暮れなずむ恋になりそうならなそう
花曇り窓の外はと尋ねられ

平木桂
花吹雪若さにしがみつくなんて
吾子の掌に花びらとして舞ひ降りぬ
見飽きたる仏頂顔と浅蜊汁
百舌鳥古墳バルーンのゆく養花天

橋本喜美子
寒鯉のはじめに胃腑の抜かれけり
降る雪に青空来よと祈りおり
年の豆大国さまにあげ申す
何にでも入れる打豆鬼やらひ

宮下揺子
父母に抗う少年の四月
夏衣ライブカメラにⅤサイン
うっかりが続く日の中こぶし咲く
自己主張強い二人と春の旅

半田澄夫
迷い込む哲学の森寒の夜
一人となり冬の峠をバスで越す
手間暇を残さず食べんおでんだし
早く咲く梅は主を選ばない

北橋世喜子
一番と空を指差す花アロエ
煮凝りの醤油の甘さ義母の味
大の字に吹かれ干されしねんねこよ
味噌仕込む四時間を豆踊りけり

中島孝子
ガラス器を飾り遅れし雪中花
寒さなし生地をこねゆくパン作り
声響く氷柱の長さ競う子ら
冴え返るペダルの重し投票日

楽沙千子
春きざす傘寿祝いの花束に
海苔香る紀州茶粥の朝餉かな
趣味の友招いていたりわらび餅
特急を見上げていたり花筏

上原晃子
たむろするふくら雀の精米所
俯きの蝋梅透かす日差かな
雪あかりママレード煮る艶と香よ
白梅の徒長枝競い天を突く

川合道子
筆に墨白を生かして冬を描く
新聞の冷たさを取り朝始まる
冬空にひっそりとある朝の月
真っ白な地面を進む息白し

石田敦子
小豆粥インスタントで事の足る
ことごとく切先の向く氷柱かな
存分に雪舞う街を見に行かむ
豆まきのスターの揃ふ福は内

林おうはく
雪しまきライトに映る能登の道
風花や何処の旅の寄り道か
冬日受く鰡待ち櫓光る波
十二月仏も神もCMに

市太勝人
天覧の初場所にして総くずれ
風花やあの日のことを忘れずに
大棋士の旅立ってゆく寒の内
初春や紙の朝刊保存する

東 淑子
高高と咳の体を寄せており
寒風のキンキンと窓鳴らしけり
紅白の人を寄せいる梅の花
水仙やすんなりとした黄色をし


〈俳句物語〉岡田耕治
燃え尽きし星もあるべし春の空 茨木和生  句集『さやか』より

 七十五歳のおじいちゃんは、元高校の物理の教員だった。六年前におばあちゃんを亡くしてから一人暮らしをしている。さやかは小学五年生で、春休みや夏休みなどに、兄と一緒におじいちゃんの家で二、三泊して過ごすのが何よりの楽しみだ。
 おじいちゃんの書斎は、さやかのお気に入りの場所だ。端の玉をぶつけると反対側の玉がカチーンと飛び出す振り子。光を当てるだけでガラス瓶の中の風車がクルクルと回り出す不思議な道具。そんな「なぜ?」を掻き立てるものがあふれている。
 今晩、おじいちゃんは、窓際にあるどっしりとした望遠鏡にさやかを招いた。
「これは遠くを見る道具であると同時に、『過去を見るタイムマシン』でもあるんだよ」。
おじいちゃんは、春の夜空の「北斗七星」から「しし座」にかけてのエリアが「宇宙ののぞき窓」と呼ばれていることを教えてくれた。
「今日この窓からは、いま自分たちがいる銀河ではなく、ずっと遠くの『別の銀河』が見えるんだ。
「今日はなぜ、遠くの星が見えるの?」。
「天の川の方向、つまり夏や冬の夜空を見ると、銀河の星やガスが多すぎて、遠くが見通せない。でも、春の夜に北斗七星やしし座がある方向は、天の川銀河の真上にあたる『薄い部分』なんだ。だから、邪魔されずに、はるか遠い別の銀河がよく見えるんだよ」。
 さやかは、おじいちゃんがセットしてくれた望遠鏡を覗き込んだ。
「おじいちゃん、写真で見るような渦巻きなんて見えないよ。なんだか、小さくて淡い、光のシミみたい」。
「そのぼんやりした光のシミの中に、太陽のような星が何千億個も詰まっているんだ。その光は、数千万年という長い旅をして、今、さやかの目に届いたんだよ。さやか見ている光の中には、実はその星自体がすでに消滅してしまっている光もあるんだ」。
 さやかは不思議そうな顔で尋ねた。「星は消えてしまうとどうなるの?」
「星が一生を終えて燃え尽きると、そのかけらが宇宙に散らばる。その星のくずが集まって、新しい太陽ができ、地球ができ、そして長い時間をかけて私たちの体が作られるんだ」。
「じゃあ、燃え尽きても死ぬことはないのね」。


*夕空をやわらかくして燕来る 岡田耕治

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