沈黙をふくらんでくる牡丹の芽 渡邉美保
岡田耕治
さよちゃんは、学校では全くしゃべらない。表情も、笑顔とか怒った顔とか、そういうのも見たことがない。ただ静かにそこにいるだけだ。中学校2年生のとき転校してきたけれど、別々のクラスだった。3年生で同じクラスになって、初めてその沈黙に気づいた。なぜ何も言わないのだろうと思うこともあるが、私もどちらかというと人間関係が苦手な方なので、さよちゃんのようになりたいと思うこともある。
推しのアーティストのことで盛り上がったり、インスタでスイーツを自慢したり、休みにグッズを買いに出かけたりすることは苦手だ。さよちゃんの気持ちはわからないけれど、なんとなく、さよちゃんのことが気になっていた。
2学期の初め、さよちゃんに、私の携帯番号をメモして「よかったらメッセージちょうだい」と渡した。するとその日の夜、さよちゃんから「教えてくれてありがとう」とメッセージが入った。そこからさよちゃんとは苦手なLINEではなく、iPhoneのメッセージでやりとりするようになった。
学校にはケータイを持っていけず、昼間はやりとりができないけれど、学校から帰ってからさよちゃんとやりとりをするようになった。しばらくして、家では普通にしゃべっているけれど、学校に行くとどうしても話せなくなると書いてくれた。志望高校が一緒だったので、何とか合格するように、お互いに情報交換もした。
公立高校の合格発表の日、朝10時からネット上で発表されるので、10時きっかりにアクセスしたけれど、なかなかつながらない。10時20分を廻ったところで、やっとつながって、合格という画面が表示された。母にメッセージを送ってから、さよちゃんはどうだろうとメッセージを送ると、さよちゃんも合格していた。
入学式の日は、前日の雨に打って変わってきれいに晴れ、校庭の桜も満開だった。私とさよちゃんは、また同じクラスになった。なんだか、ほっとしたような気持ちになる。母にさよちゃんとツーショットの撮影をしてもらった。家に帰って写真を見直すと、さよちゃんがほんの少し笑っているように見えた。
もしかしてと思って、ボイスメッセージで語りかけた。
「さよちゃん、今日の入学式は良かったね。これからはいつも携帯を持って、連絡を取り合うことができるね」
すると、すぐボイスメッセージが返ってきた。
「そうだね。ありがとう」
初めて聞いたさよちゃんの声は、ふくらみのある声だった。
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