香天集4月5日 岡田耕治 選
渡邉美保
沈黙をふくらんでくる牡丹の芽
干潮の舟が傾き木瓜の花
啓蟄の古本屋にて兄と会ふ
陵は大き鍵穴つばめ来る
辻井こうめ
鳥曇上演までの外つ語かな
ものだねの四天王寺の帰り道
握り飯春分の日の里山へ
実直な人やも知れむ木瓜の花
浅海紀代子
木の芽風戸口を開けて待つ便り
チューリップ泣いている間に天を突く
ふんばりの効かぬ日のあり雪柳
春の虹追憶はみな彩もたず
加地弘子
初暦開け閉めの時少し跳ね
枯菊の品よくありぬポリ袋
戦なき空を真っ直ぐ初燕
ピーピーと雀の枕鳴き出しぬ
川村定子
七段の男雛と女雛だけかざる
春てふに腰のカイロを張り足しぬ
美冷作山寺の庭くゆりなし
救急車寒の夜道を走り抜く
垣内孝雄
芽吹く木木犬を連れたる老夫婦
緑立つ近道の畔選びおり
花の昼付け紐とほす身八つ口
父母と祖父の墓石や里桜
岡田ヨシ子
雛の寿司シルバーカーを連ねおり
故郷の通学路から桜消ゆ
花見へと誘う手紙に夢と書く
夕桜天国からの迎えなく
秋吉正子
紅梅や細かい所目をつぶり
なつかしき人に会ったよ春の雪
注文はタッチパネルで浅蜊汁
探梅や団地の中のシルバーカー
吉丸房江
お日様に献ずるごとき花の彩
初誕生お口もぐもぐ桜餅
どこ行くも赤き絨毯落椿
温きまま釘煮届ける友の居て
西前照子
バス旅行米寿の祝い歌舞伎座へ
神棚にのせ理智院の年の豆
春が来る人生ゲームルーレット
つばめ待つ仕事場の窓明け放ち
大西孝子
青空に告げることあり初燕
我が家へと帰ってきたとつばくらめ
庭の中去年より増えふきのとう
川端大誠
ゆったりと背中を癒やす春の風
川端勇健
車窓から川端を減る桜たち
川端伸路
入学の兄楽になる通学路
【俳句物語】 岡田耕治
沈黙をふくらんでくる牡丹の芽 渡邉美保
さよちゃんは、学校では全くしゃべらない。表情も、笑顔とか怒った顔とか、そういうのも見たことがない。ただ静かにそこにいるだけだ。中学校2年生のとき転校してきたけれど、別々のクラスだった。3年生で同じクラスになって、初めてその沈黙に気づいた。なぜ何も言わないのだろうと思うこともあるが、私もどちらかというと人間関係が苦手な方なので、さよちゃんのようになりたいと思うこともある。
推しのアーティストのことで盛り上がったり、インスタでスイーツを自慢したり、休みにグッズを買いに出かけたりすることは苦手だ。さよちゃんの気持ちはわからないけれど、なんとなく、さよちゃんのことが気になっていた。
2学期の初め、さよちゃんに、私の携帯番号をメモして「よかったらメッセージちょうだい」と渡した。するとその日の夜、さよちゃんから「教えてくれてありがとう」とメッセージが入った。そこからさよちゃんとは苦手なLINEではなく、iPhoneのメッセージでやりとりするようになった。
学校にはケータイを持っていけず、昼間はやりとりができないけれど、学校から帰ってからさよちゃんとやりとりをするようになった。しばらくして、家では普通にしゃべっているけれど、学校に行くとどうしても話せなくなると書いてくれた。志望高校が一緒だったので、何とか合格するように、お互いに情報交換もした。
公立高校の合格発表の日、朝10時からネット上で発表されるので、10時きっかりにアクセスしたけれど、なかなかつながらない。10時20分を廻ったところで、やっとつながって、合格という画面が表示された。母にメッセージを送ってから、さよちゃんはどうだろうとメッセージを送ると、さよちゃんも合格していた。
入学式の日は、前日の雨に打って変わってきれいに晴れ、校庭の桜も満開だった。私とさよちゃんは、また同じクラスになった。なんだか、ほっとしたような気持ちになる。母にさよちゃんとツーショットの撮影をしてもらった。家に帰って写真を見直すと、さよちゃんがほんの少し笑っているように見えた。
もしかしてと思って、ボイスメッセージで語りかけた。
「さよちゃん、今日の入学式は良かったね。これからはいつも携帯を持って、連絡を取り合うことができるね」
すると、すぐボイスメッセージが返ってきた。
「そうだね。ありがとう」
初めて聞いたさよちゃんの声は、ふくらみのある声だった。
*花筏迎え入れたる水泡かな 岡田耕治
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