2016年10月2日日曜日

香天集10月2日 釜田きよ子、玉記玉、石井冴ほか

香天集10月2日 岡田耕治 選

釜田きよ子
台風圏煉羊羹をひと口で
鉦叩己の胸を打ちつづけ
蟷螂の三角貌の哲学者
曼珠沙華とっても痛い形して

玉記玉
年輪にぴったりはまる秋ついり
太刀魚をまっすぐ垂らし以下余白
流星の証拠まばたきする鏡
どれも硬くて人工島の柘榴

石井 冴
太陽の塔の真下の秋日濃し
観覧車コスモスの群動き出す
果てがない秋空廻す観覧車
八朔やサーカスの馬白く立つ

橋本惠美子
ベランダの端に偏り遠花火
秋の朝振れば進める腕時計
黍嵐嵩高きもの掻き集め
コオロギや絡繰りのある仕掛けとも

森谷一成
のりものの狭き軌道に夏の海
影を灼く広場を分科会場へ
昇降機待つ間のわれら飛蝗のごと
乾杯のグラスへ差して稲光

大杉 衛
メリーゴーラウンドを押し秋の風
ひぐらしの声を仕舞いて桐の箱
いわし雲ときどき鱗反射せり
夕暮となるどんぐりを分け合いて

浅野千代 
新しき秋を迎えにゆきにけり
君の食う林檎をむいているナイフ
長き夜の窓に三人顔を出す
とんぼうや子の髪を撫で飛びゆけり

北川柊斗
方舟の星座が渡り曼珠沙華
秋扇置かれしバーのカウンター
原罪を自罪としたり酔芙蓉
天牛のかるし悲しき音発す

木村 朴
中秋無月皓皓と白鷺城(はくろじょう)
ゆっくりと過ぐ台風を待つばかり
家のあるあたり木犀の匂いけり
落栗の一つ軌道へ出て来たる

今川靜香
電灯を消し月光の涼を受く
地の影をさらいては揺れ風の萩
少年に汗のボールを返しけり
明日からもことなく生きん洗い髪

中濱信子
一陣の風を厨に今朝の秋
生き合うて言葉を交わす秋彼岸
ポーチュラカ吊るして風のよく通り
案山子立つ中に黄色のヘルメット

浅海紀代子
ジンジャーを手折れば香失いぬ
幼子の声に囲まれ栗を剥く
曼珠沙華拒まれている赤さとも
野分去り鳥の声ある朝かな

越智小泉
ほどのよき隔たりのあり花芒
月光の方に向かいて膝正す
梵鐘の一打に秋の深まりぬ
流木は生木の匂い秋の朝

竹村 都
夾竹桃の向う銀翼見えてくる
墓参り酒と煙草を供え置く
児の浴衣開けるままに石の坂
何の日と問う児八月十五日

永田 文
紅色を残す切株小鳥来る
口中をしがしがさせて甘蔗
城跡を囲む山並鳥渡る
リズムよく梨剥いている二人の夜
*東大阪市で見つけた白い曼珠沙華。

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