2016年10月30日日曜日

香天集10月30日 石井冴、橋本惠美子、加地弘子ほか

香天集10月30日 岡田耕治 選

石井 冴
柿硬し六林男のもとに揃いたる
毒きのこ棒持つ人を愉します
人間の名前をもらい案山子立つ
水差しの中は真っ暗水澄めり

橋本惠美子
月光を交ぜて砥石を濡らしたる
梨を剥くすっぱきことを内に秘め
天かすのゆっくり浮いて鱗雲
花火師や二個の大きなにぎり飯

加地弘子
咲くほどに小振りとなりぬ紅芙蓉
声までも母に似ている石蕗の花
スポンジが青を吸いとり秋の雲
踏んで来し垣根づたいの金木犀

澤本祐子
草の葉のそよぎに浜の秋近し
過去からの風を送りてサンマ焼く
一粒の葡萄を食べて返答す
青空を揺らす芒の穂並かな

釜田きよ子
少年のポケットどんぐり長者かな
心臓に還る血の音秋の夜
幼子の喃語ほにゃほにゃ小鳥来る
脊椎の隙間木枯し一号吹く

橋爪隆子
噴水や青から白のふきあがり
思いきり光かみしめ今年米
包丁の刃に流れゆく梨の色
姉の香をもらう形見の秋扇

藤川美佐子
末枯れの影を力としていたる
此の道は来て去るところ里しぐれ
大小の靴跡みだれ秋深む
捨て石を力としたる秋の蝶

北川柊斗
爆弾となりぬる檸檬かじりけり
少年にもどる兆しや木の実降る
子蟷螂すでに武者なるかまへせり
夕闇へ覚醒したる菊人形

中濱信子
秋空の碧より下りる滑り台
赤トンボ空を真青にして去りぬ
歩かねば秋風に追い越されゆく
ハミングの男は秋の風の中

木村 朴
仏塔や秋の入日を残したる
逃げる子も鬼の子もつけ牛膝
萩咲いてようこそと辞儀していたる
下り坂なれば転がるかりんの実

浅海紀代子
新涼や三つ編み少女跳ねて来る
新涼の風が釦をはずしけり
指輪なき左手かざす秋の風
手を上げて古き友来る秋の空

古澤かおる
オーボエとピアノの調べ金木犀
十三夜少女の指の水浸し
語り部のシャツはお揃い檀の実
手に届く熊野古道のからすうり

越智小泉
木の上の鴉も氏子村祭
ハモニカを吹く子の見えず里の秋
手の届く処は採られ柿の秋
新米を研ぐ三合は三日分

村上青女
満月や一つの玻璃にくっきりと
鮭狙う羆が見えて旅の窓
よこ雲のうす衣羽織り十六夜
回復の友と眺めて十三夜

竹村 都
神楽舞親から子へと秋祭
体操の始まる工場秋茜
秋桜通園バスの絵のあらた
稲光近づいて子ら走りだす

西嶋豊子
紅葉狩猫のせて行く押し車
一等賞運動会の靴を脱ぎ
秋日和歩ける事のしあわせに
燕去るここからの空広くして
*大阪教育大学の天王寺キャンパス。紅葉が進んでいます。

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