香天集5月26日 岡田耕治 選
玉記玉
逆光の金魚もっともよくうごく
明るくて疲れる恋をして金魚
シャガールの空へ落ちゆく滝であり
右の手で考えることソーダ水
森谷一成
しゃぼん玉と正面衝突して来たる
貝寄風や他(あだ)し国びと地下鉄へ
昼酒の皿まで舐めて四月尽
憲法記念日ゲームの戦士疲れざる
谷川すみれ
どこへ行きたいコンクリートの蚯蚓
一本の道となりゆく噴水よ
蚊喰鳥家出少女がぶら下がり
暗黒の子宮に開く花火かな
中嶋飛鳥
髪束ね吊り眼となれり麦の秋
憲法記念日閉じし目蓋の眼うごく
うなずけぬことを肯き著莪の花
木下闇食指を立てて声閉ざす
辻井こうめ
倒木の林明るく草いちご
山藤やのっぺらぼうの羅漢さん
小鳥の巣あるとの掲示水車の音
瓶に挿し矢車草の色の数
橋爪隆子
それぞれの風をえらんで石鹸玉
ぶらんこや雲は大きな穴をあけ
白木蓮海澄んで空澄みにけり
新茶汲むかみ合ってくる会話にて
橋本惠美子
キセルからこよりの覗き目借時
花明り一人で入る映画館
応援やトランペットの春の空
説法の頃合を見て蝶去りぬ
坂原梢(4月)
甘党と辛党まじり葱坊主
いつの間に長老となり竹の秋
母の味丸くなりたる木の芽和
突き咲いて白木蓮の匂いかな
木村博昭
学び手は老人ばかり若葉風
母の手を振りほどきゆく若楓
愉しくて歩き疲れて花うつぎ
万緑や迷子になりし大人たち
坂原梢(5月)
五弁花の匂いあふれる蜜柑かな
空豆や気のむくままに飛び出して
風車一つ二つが回りけり
潮風のやさしさ包み花茨
古澤かおる
黴匂う女系家族の月日かな
河口まで自転車で来て白い靴
神戸の夏深煎り豆を百グラム
パン生地の寝ている間虹立てり
安部礼子
体温をいとしく思う夏初め
黒南風に失す足跡を匿いぬ
眠られぬ瞳卯の花腐しかな
オッカムの剃刀光り梅雨の中
羽畑貫治
水泡と浮いて沈んで濁り鮒
認知症梅雨の時空を独り占め
木下闇透かして探る白髪かな
わが世にて好きな物食べ蝮酒
永田 文
やわらかな風は肌へに更衣
青空を飛びて子等へと鯉幟
野を歩く五月の風を身にまとい
大屋根の光る瓦や柿若葉
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
係長 岡田耕治
青嵐両手はいつも空けておく
テレビジョン消すや現れ金魚玉
四方から囲まれてあり夏の空
更衣この消しゴムの匂い好き
突然に動きが止まり青蜥蜴
夏シャツや次の句会のために吊り
答えなきことを愉しむ冷奴
夕焼や急がぬ人の中急ぎ
強い子になって食べ出す夏氷
冷し酒係長から酔いはじむ
カーネーション顔を近づけ話すこと
武器になるものの形に風薫る
音読す五月の窓を開け放ち
しばらくを真上に居たり夏燕
交わしたる視線に夏のきざしけり
連絡:本日掲載予定の「香天集」は投句者が
多いため、夕刻にアップします。お待ちください。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
香天集5月19日 岡田耕治 選
石井 冴
苜蓿すぐ気の変わるスカートと
唇に触れては熟すさくらんぼ
燕子花ぼくらは個個に日を数え
列から逸れて蟻は人 人は蟻
三好広一郎
アオムシやすべての部位が蟻になる
万緑や洗わぬ帽子てかてかと
目隠しは耳も隠すや無限の夏
フルートのその音が欲し風薫る
加地弘子
何回も影のよぎりて豆の花
雨あがるふらここに音一つなく
青き踏む子はけんけんの足を替え
ぶつかって帰ってきたり春の海
北川柊斗
口笛の直線囀りの曲線
元号のよしあし論ず蝌蚪の群
枡酒にわづかな塩とヒヤシンス
朧月大仏の手が伸びてゐる
神谷曜子
梅雨の空なくす時計の行方にも
蒲公英の絮よ不思議は起こらない
廃村や祭のように桜咲き
馬鈴薯に大粒の雨休みの日
岡田ヨシ子
モルディブに出掛けるという春休
頭から消える黄砂を干しにけり
鶯や声の整う日の近し
ガラケーかスマホにするか夏燕
*南海泉大津駅から鈴木六林男邸へ。
ネクタイ 岡田耕治
標的や水鉄砲が倒したる
目的を持たずに歩く若葉風
ここに居ていいよと聞こえ桐の花
ハンカチや笑い続けて泣いてあり
人を待つまっすぐ前の夏暖簾
ソーセージ六種と共にビール来る
食堂のベルトが回り出して初夏
夏兆す巡査部長の背筋にも
一斉にネクタイが消え夏始
薫る風何時もの人に追い越され
パン濡らすオイルの香る五月かな
伝言を渡され渡し蜘蛛の糸
*「学校の役割と経営」の黒板から。
香天集5月12日 岡田耕治 選
三好つや子
ちぎり絵の籠に囀り閉じ込める
深層心理入門講座花むしろ
春昼の袋小路よ鼻の奥
身の内のどこか蔓性藤の花
砂山恵子
何もかも知つてゐるはずソーダ水
薫風や歌読めぬなら歩こうか
腹這ひで絵を描く少女麦は波
樺の花上皇后の時間にも
中辻武男
春雨や新元号に上がりゆく
春蘭の花に誘われ絵筆取る
親と子が心を解き柏餅
初夏の甲羅を干して亀の群
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
渦潮 岡田耕治
花菜風返る答えに間のありて
ゆっくりと複雑になる金鳳花
三人の句会はじまる竹の秋
若草のもう一笑いしていたり
安心のふくらんでくるしゃぼん玉
緑立つ一人ひとりにある自信
自由とは考えながら青を踏む
淡路島五句
渦潮を見渡す橋の鼓動かな
子と眠る春暁を覚めており
くすぐりぬ十連休の真ん中を
春雨の出られなくなる迷路にて
風車掌の手の熱きまま
*淡路島にて。
香天集5月5日 岡田耕治 選
渡邉美保
つばくらめ新元号を銜え来る
つばめ来る駅舎に飾る花摘んで
探られて春の出口の深くなる
照り合うて重なり合うて春落葉
西本君代
桜蘂決して泣きやまぬと決める
ふらここや叱られしこと揺らしたる
晩春の仮屋漁港に糸垂らす
風の押す小さな扉苺狩り
宮下揺子
春の雨電車の音を近くする
げんげ田にソーラーパネル連なりぬ
木の芽摘む現状維持の家族にて
竹の秋ボタンのひとつ取れたまま
中嶋紀代子
買い得と貼られていたる栄螺五個
アスパラの草押しのける力かな
風を待つ春の野げしの白き絮
ヒヤシンスラピスラズリの色をして
*淡路島にて。