2020年12月27日日曜日

香天集12月27日 玉記玉、安田中彦、谷川すみれ他

香天集12月27日 岡田耕治 選


玉記 玉

白菜の断面穏やかなる密

トルソーの顔は梟かも知れぬ

枯紫陽花ところどころに腸のいろ

焼き芋と純愛分布して教室


安田中彦

独白のやうに湧き出づ雪ほたる

黒板や開戦日とは誰も知らず

翻車魚のまへマフラーを緩く捲き

生き急ぐ鳥のぶつかる冬の玻璃


谷川すみれ

瘡蓋を考えている葱坊主

書き残す出自のことを春の雪

ガラス器の触れ合う音の四月かな

草若葉無条件には生まれたり


加地弘子

数え日のコロコロ手押し車かな

冬銀河古里の土踏まず発つ

縄跳びに一番近し冬菫

根元まで瓶を透かして冬菫


小﨑ひろ子

褐色の若芽落ち着き冬薔薇

雪の山GO TOキャンペーンむなし

冬の灯へ最短距離はけものみち

勘ぐれば故意かもしれず大嚏


古澤かおる

交番は城のイメージ松飾

蜂蜜の瓶を温める師走かな

静電気パッチと一人除夜の闇

年の市賞味期限の見え辛く


中辻武男

「はやぶさ2」見事に帰還冬の月

思いはす久方振りの年賀状

着膨れて自重に勝るものはなし

娘へと頼むこと増え年の暮



*岬町小島にて。みなさま、つつがなきご越年を、切に。

「六林男忌」12句 岡田耕治

六林男忌の単独行を愉しめり

約束に期日のありて冬薔薇

立ったまま会議のすすむ室の花

冬日向人柄として残りたる

一食を抜くだけでよし初氷

全員が戻る画面に年詰まる

初雪を告げて出てゆく白衣かな

みんなから見える高さに冬雲雀

したいことだけをしており冬帽子

年用意雨という声渡りけり

木枯の海より他に何もなく

答えなきままにしておく懐手




2020年12月20日日曜日

香天集12月20日 石井冴、三好広一郎、夏礼子、中嶋飛鳥ほか

香天集12月20日 岡田耕治 選

石井 冴

わが椅子を誰かが運ぶ冬野かな

六林男の日背骨を立てて家を出る

葉を落とし大根を楽にしてやりぬ

家中の神に大根のよく煮えて


三好広一郎

軟膏の蓋が転がる年の暮

蓑虫の巾着あります奥へ奥へ

布団干すあぁ死にそうな遊びかな

目の中に白菜の瘦せていく音


夏 礼子

聞き役に徹すつつじの帰り花

青空の濃くなってゆく木守柿

鍋の湯が沸きすぎている憂国忌

花枇杷や回覧板は不急なる


中嶋飛鳥

弔いの墨に一滴冬の水

コーヒーの湯気よ数字を弄び

水洟のひとすじ切羽詰まりたる

入院の見つめ始める庭の枯


辻井こうめ

開戦日背山の笹の花咲けり

六林男忌や浚ひきれない潦

山眠る未読のままに戻す本

嘴太のみかんが二つ空駈くる


木村博昭

くさぐさの家庭菜園冬日向

湯の町を湯の川流る雪催

討入の日なり囲みを逃げてゆく

ポインセチア包みのままにするギフト


嶋田 静

ビートルズのイマジン渡る冬の星

波郷忌を真白に椿咲きにけり

山茶花や幼き写真胸にして

手折られし野辺の白菊香り濃し

 

櫻井元晴

蟹鍋のみんな無口になっており

粕汁の匂いが残り長電話

冬の雷愛犬だけのかくれんぼ

おひとつと蜜入りリンゴ差し出さる

 

永田 文

日をとどめ冬の紅葉のきわまりぬ

走る子と歩く子とあり初時雨

はたはたと風が落葉を追いかける

木の実食む唄うごとくに喉ふくれ


*岬町小島にて。



高校生  岡田耕治

冬薔薇一輪であることのよし

分け合いて石焼薯の尖りけり

枯蓮胸の支えを保ちたる

石蕗の花シルバーカーが抵触す

日短し高校生が荒れはじめ

熱燗や同量の水かたわらに

全員が画面に戻り年の内

北風と子が雲梯を鳴らしゆく

古布団今日一日を整えて

よく喋る人に近づく屏風かな



2020年12月13日日曜日

香天集12月13日 岡田耕治 選

香天集12月13日 岡田耕治 選

柴田 亨

前の世に逢いし人あり鰯雲 

十カ月われを育てし母なりき 

鶏糞のなかに卵の温さかな 

天空の数多の螺旋冬に入る 


砂山恵子

行く先はマフラー巻きて考へる

一人去り皆去る川の千鳥かな

何もかも人生ゲーム毛糸編む

閉館の障子に立てて棕櫚箒


岡田ヨシ子

背のちぢみ比べていたり花芒

京都から惣菜届く年用意

カレンダーの塗り絵を埋めて年迎う

ポストへと軽き音して年賀状

*岬町多奈川にて。


「バッハ」10句 岡田耕治

大阪を出ることならず冬の蠅

昼休み落葉の中に坐りいる

各駅に停まる時雨の読書かな

生き残るために動かず冬日向

冬銀河耳にバッハを満たしけり

店内に居る人が見え十二月

冬の川遠くまで日の当たりたる

ひとり言始まってくるマスクかな

息白し知らないうちに寄り添われ

冬帽子掴んで投げる遊びかな 


2020年12月6日日曜日

香天集12月6日 渡邉美保、三好つや子、浅海紀代子ほか

香天集12月6日 岡田耕治 選

渡邉美保
冬青空酸素ボンベが引き出され
言訳の前にマフラーはずしけり
裸木となりて走り根せり上がる
朝夕に海見る暮らし冬椿

三好つや子
顔のない一人となりて冬の駅
手袋につかのま眠る翼かな
極月の青い煙に巻かれたる
蛇眠る根の営みを枕とし

浅海紀代子(11月)
栗の飯家族の声のありにけり
大木の伐られし空や小鳥来る
赤き物まわりに増やし冬はじめ
冬来るとゆっくり戸口開けにけり

中濱信子
人声のなくなり秋の日の欠片
夕方になれば日当たる石蕗の花
掃いてゆく道に吹きたる落葉から
続柄こまかく話す日向ぼこ

浅海紀代子(10月)
人口の減りつづけたる遠花火
泣く声にあやす声あり白粉花
秋一日眠ることのみ残りけり
ぼんやりと私が見えて秋の暮
 
宮下揺子
ささやかな言葉の残る枯芭蕉
呑み込めぬ不快さは鰰の斑
閉鎖され八幡平道黄落す
神留守の図書館の本読み聞かす

神谷曜子
秋の蚊の攻めにあいたる一夜かな
揺れている理由を知らず泡立草
芒原置いてきぼりも悪くない
冬の烏瓜揺れ「お先にどうぞ」

羽畑貫治
等圧線大きく跨ぎ日脚伸ぶ
永らえて三寒四温ちぐはぐに
暖冬や五臓六腑の繋がりぬ
春隣子猫の瞳裏返る

安部礼子
枯睡蓮沈む岩へとなる途中
人間の代表として雪喰らう
悪役になるには早し北颪
小六月ジャングルジムに留まりぬ

吉丸房江
石蕗の花黄色の蝶を遊ばせて
万両のよくふくらみし日和かな
落椿二つ並んでいることに
土の力一つひとつに白菜巻く

楽沙千子(9月)
秋思ふと使い古しのペンダント
糸瓜水とるや落日始まりぬ
沖見えてこの道帰る花芙蓉
掛け声にかけ声返る秋祭
   
楽沙千子(10月)
親指を反らし殻剥く落花生
団栗をのせ掌のけがれなし
えのころ草急に夕日の透いてくる
きりぎりす藁の草履の心地して
 
楽沙千子(11月)
旧姓で呼ばれてよりの返り花
豆を剥く祖母の形となる秋思
畦急ぐ膝を湿らせ赤のまま
澄む水の音をひびかせバンガロー
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2020年12月5日土曜日

「冬の蝶」10句 岡田耕治

冬の蝶  岡田耕治

持ち帰る落葉もの足りなくなりて

別別に話すことあるマスクかな

番号が分からなくなる神渡

冬日和誰の肌にも触れないで

駆け込んで乗車してくる根深かな

一息に告げることあり霜の夜

冬の山神にはあらず祈りけり

ここに居ていいよと告げて冬椿

冬の蝶生きているだけ生きており

身支度の間香れる障子かな