2022年6月26日日曜日

香天集6月26日 渡邊美保、夏礼子、森谷一成、砂山恵子ほか

香天集6月26日 岡田耕治 選

渡邉美保
車前草を踏んで手足の老いにけり
草笛のよく鳴る草を与えられ
まつさらな空葉桜の隙間より
明易し雨のすぎたる静けさに

夏 礼子
青空を食みはじめたる新樹かな
光なきものは蛍と飛びにけり
雨音へ色をうつせり濃紫陽花
梅雨に入るマスクの耳の反抗期

森谷一成
蜃気楼西に援蒋ルートありき
一丸になれない人へクローバー
群衆を演じ終えたるクローバー
菖蒲田を出てきて思い切りべろり

砂山恵子
あるだけの日を溜めてゆく日向水
夏越祭おはり大きく白鳥座
紐緩めしことに始まり登山小屋
星からの電波を受けて開く蓮

木村博昭
新緑や堂塔伽藍朱に塗られ
蘭鋳はいつも余所見をしていたる
気弱なることを隠して蟇
梅雨寒し核シェルターを買う話

神谷曜子
夏銀河中のひとつをイヤリング
五月雨の音を重ねて膨らみぬ
夏氷食べつつ話し若返る
ゆるやかに老いゆくためにぐみを煮る

古澤かおる
人力の古墳調査よ雲の峰
病葉や束の間思いっきり晴れて
キッチンの窓より薔薇の見える家
夏服の鎖骨に擦れしベルトかな

春田 真理子
訃報連れ鴉の渡る梅雨晴間
紫陽花にかくれんぼの子鬼子母神
仏壇の奥より出でし夏の蝶
太陽に目玉を貰うガザニアは

牧内登志雄
夏みかんやつぱり酸つぱ君の嘘
濁り鮒尾びれ打つ音水の音
姉さんに女の匂ひ初浴衣
海鞘むけば黒き笑顔の弾けたり
*大阪市内にて。

2022年6月19日日曜日

香天集6月19日 石井冴、三好広一郎、中嶋飛鳥、加地弘子ほか

香天集6月19日 岡田耕治 選

石井 冴
銀髪の光るヨットが帰り来る
父の日の父は個室を出て来たり
青蛙匂いを連れて友が来る
段段と恐ろしくなる蛍の夜

三好広一郎
桃は浮く水に達者な舞子はん
心太ノルマのきつい人だろう
金魚売手を濡らさずに子と遊ぶ
短夜や終わりよければ再生す

中嶋飛鳥
夕薄暑くすりを呑みてより病者
形代のそのたゆたいを手にて押す
棘失いてより薔薇の人嫌い
水を打ち病原菌を鎮めおり

加地弘子
全景のあちこち尖る桜のあり
風船の忘れられない離れ際
木に逃げる息を乱せる守宮かな
姫女苑路の普請に駆り出され

安部礼子
炎天の飽和飛行機の音こぼす
いけないことはみんな君のハンカチ
噴水 唐突に性忘れけり
少年の夏チェレンコフの光充ち

楽沙千子
格子戸の造り酒屋の緑雨かな
空港を沖に控えるヨットの帆
大正の献立が良し洗飯
窓枠の新緑飛ばす路線バス

春田 真理子
耕せり吾の血筋を思いつつ
追われゆく時間と別に葱坊主
卒寿来て免許を返す五月かな
万緑や平均律の木霊する

岡田ヨシ子
石鯛や撮影中に跳ねて海
絵手紙とする紫陽花を選びけり
大蟻にゴメンとシューズ重ねおり
夏の朝始まる舟のエンジン音

大里久代
ホーホケキョ練習重ねホーホケキョ
鈴生りの狭まってゆくミニトマト

北岡昌子
玄関に向日葵を生け人を待つ
耕運機の音のなくなる胡瓜かな

秋吉正子
雨の中来る通販の扇風機
薫風や歩いて行ける道の駅
*大阪市内にて。

2022年6月12日日曜日

香天集6月12日 玉記玉、柴田亨、渡邉美保、三好つや子ほか

香天集6月12日 岡田耕治 選

玉記玉
更衣太平洋が近くなる
滴りに触れて光を殺めたる
翡翠の去ってさっきはもう昔
片方は空に掛けたるハンモック

柴田亨
バスを待つ無言の二人春の雨
白詰草我が胸中を満たしおり
それぞれの明日香眩しく少年よ
傷痕の静寂に触れ梅雨に入る

渡邉美保
ガガンボのわが白髪に紛れけり
竹林に雨の兆しや豆ごはん
若葉風金管楽器光り合ふ
梅を煮るやさしき火種紙の蓋

三好つや子
ホスピスの遺伝子かしら蝸牛
逡巡を先回りする守宮の目
蜘蛛の糸ライフラインが縺れ合う
昼光色と昼白色の海月かな

宮下揺子
屈折の無きまま朽ちる薔薇の花
先生の癖字は元気韮の花
燕来る極彩色のキッチンカー
子に戻りつつある母や柿若葉

牧内登志雄
蚊帳吊るや百鬼夜行の息遣ひ
どうせよと問ひたる君のサングラス
元妻の指輪の跡や蚊遣香
古詩集開けば深き青葉闇

北村和美
引き出しを空っぽにして麦の秋
子供の日かたわれの靴並びおり
羅や体温の香のまとわりて
走り梅雨セーラー服の襟はねる
*大阪市内にて。

2022年6月5日日曜日

香天集6月4日 久堀博美、釜田きよ子、砂山恵子ほか

香天集6月4日 岡田耕治 選

久堀博美
ぺちゃくちゃとなめくじを飼い腐葉土は
惑星のここに水あり初蛍
新緑に酔うてとうとう躓けり
大屋根の御堂を巡る蜘蛛の糸

釜田きよ子
かたつむり今いる場所が丁度良い
更衣母には赤の記憶なく
麦の秋上手に歳を取る人と
六月の表面体温正常なる

砂山恵子
いにしへを閉じこめ夏至の羅針盤
蝉鳴きて地球温度を高くする
ぼうふらや満員の中立つやうに
百物語終へて両肩ふと軽し

浅海紀代子
胃薬を飲み込み春の愁かな
ぼうたんの散りゆく闇を共にせり
えごの花迷わず散ってしまいけり
溝浚え路地にこんなに人の居り

河野宗子
蜃気楼殺人犯はどのあたり
春眠しMRIの筒の中
くちなしの花病棟に迎えられ
したたかに俯いている春紫苑

中濱信子
悲しみはたんぽぽにある外来種
炊飯の音に包まれ春の雨
燕くる窓辺の夫それを言う
産んだ娘に叱られており五月闇

田中仁美
茶摘みする太陽の塔背にうけて
春時雨五千歩歩くことにする
パイナップル芯まで食べてゆく甘さ
夏めくや友との対話再開す

永田 文
帰りゆく薔薇一輪に足を止め
風五月駈けぬけてゆくピアスから
花蜜柑羽音せわしくなってくる
背を伸ばし羅まとう鏡かな

垣内孝雄
羅や夢のなかにて会ひし人
梅雨寒のソースたつぷりお好み焼
鎌倉の五山を巡る濃紫陽花
引つ越しす撓わのままの夏みかん

薮内静枝
菖蒲湯に菖蒲鉢巻恙なし
槌音の響きつづける若葉風
母の日に逝きし義妹塩むすび
庭石をかかえ杜鵑花の真っ赤っか

吉丸房江
春の山もっこりむっくり息を噴く
明日からの仕事の嬉しマスク無し
戦争を居間で見る日々枇杷の種
この虹を共に見ている人だーれ
*大阪市内にて。