香天集12月4日 岡田耕治 選
玉記玉
ウエハースのよう梟鳴く夜は
飛石がもひとつ欲しい冬の蝶
人間に人参部分あり愛す
歩いても歩いても道枯木立
谷川すみれ
歳晩の澱みに点ける煙草の火
毛糸玉置く空白の請求書
盛塩を過ぎ行くものの十二月
小春日の影が大きく笑いおり
渡邉美保
胸の中にも凩の通り道
沼杉の樹影ふくらむ神の留守
覗かせてもらふ石焼藷の甕
豆腐屋の白い前掛冬に入る
久堀博美
水飲んで気ままに歩く天高し
仮の世に鬼の子としてぶらさがる
方角を失っており茸山
人の死に立ち会っている海鼠かな
加地弘子
秋気澄む盲導犬の眼差しに
若き頬とがらせながら柿を噛む
枯菊を紐で括れば黄蝶舞う
枯葎生き生きと雨生き生きと
辻井こうめ
黄と赤の月の往還澄みゆけり
コスモスのスタンプを押し右廻り
満天の星のもっとも聖樹かな
素通りの常設展示枇杷咲けり
佐藤俊
大法螺の混じりて時に返り花
冬の川記憶の隙間に流れ込む
木菟鳴く人の世の穴深くして
ふるさとに記憶を残し木の実落つ
神谷曜子
初時雨猫に弱音を聞かれおり
わがままな女を入れて日向ぼこ
凩の夜の底から本探す
ピカソ風大落書に冬夕焼
河野宗子
子らの部屋ペン立てしまま秋の声
黒留袖これが最後と秋の朝
うるわしき人の集まり冬隣
落葉掃き会いたい人がすぐそこに
垣内孝雄
かつ丼のたまごふつくら冬休み
買ひ忘る二つ三つとよ神の留守
糠床に昆布をほどこす文化の日
甘えるも媚びるも苦手ぼたん鍋
牧内登志雄
鮟鱇の最後に残る顎の骨
気嵐や鉄橋渡る貨車の列
ストーブやそろりのろりと猫の居て
霜柱光る朝採れ直売所
藪内静枝
点眼が上手に出来て小春かな
初時雨庭師の鍔の雫かな
珈琲を少し熱めに今朝の冬
冬麗窓辺に朝のパンを置く
田中仁美
お祝いのピースをつくる秋日和
秋日和フラワーシャワー浴びており
冬の月写真に撮って待つことに
石蕗の花愛しき人の浮かびけり
吉丸房江
肩の荷を二つおろして忘年会
こおろぎさん夜通し鳴いていたんだね
鳶の描く線丸くなる秋の空
神神の足跡拾い淡路島
*南海多奈川線にて。
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