2024年1月21日日曜日

香天集1月21日 渡邉美保、中嶋飛鳥、加地弘子ほか

香天集1月21日 岡田耕治 選

渡邉美保
着ぶくれて凭れてゐたる犀の柵
柚子湯わく父は朝から不機嫌で
五位鷺の脚の淋しき六林男の忌
ことごとく枯葉となりて芳しき

中嶋飛鳥
日向ぼこ蛋白石の話など
初夢の顔半世紀さかのぼり
初鏡遠くより笑み取り出す
手袋の片方だけの胸騒ぎ

加地弘子
ただ嬉しかった正月の愛おしく
半分は餌籠に置く蜜柑かな
一錠の薬を探す歳の夜
蟷螂の鎌を突き上げ落ちてあり

釜田きよ子
山茶花や一日何もせずに過ぎ
身のうちの鬼の手強し鬼やらい
永遠の課題と思う福寿草
風花を一片入れし自動ドア         

小﨑ひろ子
献血の年齢あがり冬の街
大地震(おおない)の前に語らう憂国忌
流れたるキリコの行方雪の海
山眠る給食献立表の明日

古澤かおる
常のごと猫に起こされ大旦
空腹を感じる時のなき三日
古びたる鶴亀弾む床の春
骨正月宅配ピザにハンバーガー

河野宗子
冬の山両手を広げ眠りおり
手袋のほつれを縫いつ母想う
友が来て部屋の片づく冬日和
たのしみを遅らせている寒さかな

田中仁美
冬苺ほっぺ二つをふくらます
朝採りの花の形のおせちかな
もう少しで手が届きそう寒椿
改札の母に手を振る小寒かな

岡田ヨシ子
布団へと入れたきような雲並ぶ
冬の山高校生が行く姿
年賀状一通にある友の顔
実南天甥の寿命と変わりたし

小林一郎
今朝の鵯しんどい中を生きている
木枯や玄関に来る声のする
木枯や癌の床まで友の声

〈選後随想〉耕治
ことごとく枯葉となりて芳しき 渡邉美保
 枯葉は、自然の移ろいを感じさせる存在である。この句は、「ことごとく」枯葉の状態になってしまったという。この言葉は、大辞林には「多くこのましくないものについて用いる」とある。明鏡国語辞典には、「個々に注目しながら、その全体をいう語」とある。この二つを統合すると、とうとう枯葉になってしまったものの、その一つひとつが、芳しい香りを放っているという意味になろう。この芳しさは、寂しさを表象する枯葉の中に、懐かしく、温かいものを感じさせる。私たちの身もまた、刻刻と枯葉になっていくのだが、書き続ける俳句は芳しくありたい。
*岬町小島にて。

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