香天集2月11日 岡田耕治 選
三好つや子
サイケデリックな手芸部の冬埃
母さんてときどき煮凝りの小骨
立春の尻叩かれる祭りかな
眠そうなトローチの穴春きざす
春田真理子
地のずれて壊れし郷や米こぼす
雪被る木木は一途に堪えてをり
真冬日は般若心経写経せむ
呼鈴を一子侘助待つてをり
秋吉正子
ポケットのマスク確かめ梅見月
「ふるさと」に涙しており梅一輪
カレンダーに予定の増えて春きざす
億劫を吹き飛ばしけり春一番
西前照子
鏡餅割る手のひらの痛みけり
年の豆十を一つにしていたる
孫二人成人の日の光受く
山裾の声交わし合う梅の花
野間禮子
稲刈りや観音寺の鐘響き
台風へブルーシートの呼吸かな
年賀状八十歳の宝物
井戸端や七種刻む母の唄
大里久代
蝋梅やこれより先はよきことを
春きざすひと雨ごとの芝生かな
初観音祈祷を受けて軽やかに
〈選後随想〉耕治
眠そうなトローチの穴春きざす 三好つや子
トローチの穴が眠そうだと感じるというところで、ふふっと微笑みをさそい、何ともいえない温もりを感じさせてくれる。トローチの穴は、薬を溶けやすくするために設けられているそうだが、そんな機能を反転させて、「眠そうだ」という見方を打ち出す感覚に拍手を贈りたい。穴は「空」、その感覚が春の訪れの微かな兆候と結びつけられているので、この穴は私たちの人生なのかも知れないとさえ思えてくる。つや子さんならではの表現の機微は、俳句を書いてきてよかったと思わせてくれる肯定と、こんな俳句を作りたいという励ましを与えてくれる。
*岬町小島にて。
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