香天集2月25日 岡田耕治 選
湯屋ゆうや
暖かき点描となる常夜灯
鳩尾を月に曳かるる余寒かな
両腕を上ぐる欠伸や猫柳
寒暁にやはき膜張り眠りゐる
木村博昭
鍋底を青き火の這う冬の朝
隠れたる滑車の力捕鯨船
焼け跡の霙の中を捜しおり
鮃の目思いがけない偏頭痛
楽沙千子
走り書くメモを増やせり春炬燵
藁草履岩から岩へ牡蠣刮ぐ
程合いに乾く大根の夕日かな
秒針の確かなリズム冴返る
砂山恵子
七色の洗濯ばさみ春一番
観梅を理由に来る我が母校
銀嶺の迫る校庭犬ふぐり
菜の花や海に迫りし伊予の山
安部いろん
子供には見えぬ陽炎紙煙草
天と地を繋ぐ柱の春日影
時は海つらら雫の膨らみも
雪催人のまばらな駅余す
河野宗子
宅配便氷の破片ついてくる
佳き日かな梅の花びら入って来
ためらいて鯛さばく手や春の海
利き酒の五つが並び春灯
田中仁美
まだ少し時間があると浮寝鳥
イタリアの歌曲を流すシクラメン
春眠しコンピューターのマウス持ち
朧月いつもの曲のリクエスト
岡田ヨシ子
春来たる天気予報のチャンネルに
デイサービス春セーターを選びおり
娘の名前つけたるパンよ雛飾り
三階の窓を走れる春の道
〈選後随想〉耕治
暖かき点描となる常夜灯 湯屋ゆうや
「点描」とは、点点によって構成する絵画技法だが、常夜灯の灯りが闇の中に浮かぶ点描だと表現されている。この「点描」をキーワードとすることで、常夜灯の灯りが持つ静けさ、温かさ、そして存在感をより深く味わうことができる。「暖かし」という季語の使い方も新鮮だ。あまりに当たり前過ぎてかえって使われない季語だが、この季語によって常夜灯が単なる光ではなく、温かみのある光であると感じられる。「暖かし」と感じるのは、まだ夜の寒さが残っているためで、だからこそこの灯りは人の心を温めてくれるのだ。ゆうやさんの繊細な感性と、言葉選びの努力に触れることができる、早春の一句。
*岬町小島にて。
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