香天集5月19日 岡田耕治 選
三好広一郎
近道は蛇衣を脱ぐ濡れた道
薫風や藍一色に妄想す
純粋の天然水やなめくじり
痛くない歯科の看板大西日
柴田亨
五月来る作業着にある油染み
石楠花の枝ごとにある不幸せ
ダンゴ虫幼き瞳透き通り
花水木更地は風のよりどころ
辻井こうめ
入学すピンク縁取るランドセル
春眠の胛に羽着けてをり
「通ります」ペダル過ぎゆく花堤
廃校の話たんぽぽ絮毛とぶ
木村博昭
キュッ・プリとピエロの手なるゴム風船
蒲公英やじゃんけんぽんで敵となり
こどもの日子供のころの写真帖
青畳奔る子どもの素足かな
松田敦子
ファジーには生きられなくて蕗の皮
一分で忘れる話ソーダ水
白服や母とは常に揺るるもの
立ち退きの跡地今年の百合開く
上田真美
君が好き朧月夜のせいにする
道端の光を保つなずなかな
やわらかき風に呼ばれて花水木
湯の中にほどけてゆける桜かな
楽沙千子
大川を渡れば市街花銀杏
十分なちゃぶ台でありライラック
菜種梅雨足止めに合うヘルメット
花柄をとり初夏をむかえけり
嶋田静
雨音のはげし杏の花白し
うぐいすのしきり不器男の生れし町
やまぶさや二両電車に河童居て
春がすみ汽笛聞こえる町に住み
秋吉正子
初孫や餅を踏ませる初節句
黄金週団地に臨時駐車場
満開になる前に終えつつじ祭
燕来てシルバー体操中断す
川村定子
幕の内花一輪を添えくれし
大輪の牡丹に雨の容赦なく
賜りしジャスミンの香よ余すなく
ドア閉き競うて風と花秉車
〈作品鑑賞〉 耕治
五月来る作業着にある油染み 柴田亨
五月は、若葉に包まれた生命感にあふれる月。そんな明るい季節の訪れが、作業着に付いた油染みを浮き立たせている。油染みは、取ろうとしても取れないことが多く、どちらかと言えばマイナスの感情を呼ぶ。しかし、この句の「作業着にある油染み」には、マイナスよりもそれを愛おしむような響きがある。この油染みによって、生業を立てている、そんな矜恃すら感じさせる。亨さんの正確で具体的な描写は、私たちの想像力を刺激し、仕事というものへの向き合い方を考えさせてくれる一句である。
*和歌山市加太にて。
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