2024年7月14日日曜日

香天集7月14日 玉記玉、渡邉美保、柴田亨、三好つや子ほか

香天集7月14日 岡田耕治 選

玉記玉
枇杷の葉の厚ぼったくて几帳面
大甕の口中暗し八月来
戸惑いに輪郭のある蚯蚓かな
一枚の蝶を立てたる秋の水

渡邉美保
伸びきつてつめたき方へなめくじり
入水の熱冷めたるふたり麦こがし
マジシャンの箱の全開片白草
カブトムシ分解されてしまひけり

柴田亨
桐の花よりも高きに弔いぬ
幾たびも子雀の来て梅雨晴間
飼い猫の手触りに似て五月雨
修行の地紫陽花として現し世に

三好つや子
片手間で向き合えぬ事梅雨深し
疑問符のかたちに曲がる青胡瓜
どんな恋をしてきたのだろう黒出目金
横穴の語り部めくや牛蛙

上田真美
夏みかん砂糖まぶしてくれた祖母
沙羅の花地に純粋を敷きつめて
水打てど流れ出さないことのあり
夕陽受けその色になる夏椿

前塚かいち
苦しさを味わっている玉の汗
統合が失調したり百日紅
声のする幻聴野郎明易し
短夜や再読したる「夜と霧」

春田真理子
たましひを遊ばせてゐる石鹸玉
紫陽花の中より俯瞰してをりぬ
茄子を植え葉の裏側が気にかかる
生家いま蛍袋の中灯る

松田敦子
お隣の扇子にそよともらふ風
梅雨晴の夕日ぽつんとトラクター
迷ひ道紫陽花どれも似てゐたる
初蝉のやや出遅れてにはたづみ

中島孝子
贈られし花器から溢れ薔薇の花
楽しみの続いていたり七変化
朝採りの水玉走る茄子は紺
梅雨の川カヌーの声の響き合い

半田澄夫
裸婦モデル日焼の跡の仄かなる
お絵描きのパイナップルを食しけり
朝曇りサッカー場の散水銃
歩こう会麦わら帽の似合う人

東 淑子
五月雨や小さき傘に顔を埋め
干しながら家で語らむ筍梅雨
卯の花腐し谷川の音を聞き
五月雨娘が怒り孫あばれ

〈選後随想〉 耕治
入水の熱冷めたるふたり麦こがし 渡邉美保
 「入水」は、じゅすいと読めば、水に飛び込んで自殺をはかること。にゅうすいと読めば、水に入って暑さを飛ばすこと。水を前にした「ふたり」にとっては、どちらでもいいほど熱い関係であったのかも。しかし、水から上がると、なんとなく水に入る前の熱が冷めていったように感じられる。「麦こがし」は、大麦をきつね色になるまで弱火で炒ってから粉砕する。強火だと味を落としてしまうので、焦がさないようにするのがコツ。この「ふたり」も同様に焦げないうちに水から上がったにちがいない。蜂蜜を少々とお湯を注いで、スプーンで練って食べる懐かしい麦こがしは、だけど「ふたり」はこの後も仲良くあるとの、美保さんの暗示だろう。
*岬町小島にて。

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