2024年12月22日日曜日

香天集12月22日 湯屋ゆうや、前塚かいち、木村博昭、嶋田静ほか

香天集12月22日 岡田耕治 選

湯屋ゆうや
妹の編みし毛糸を疑へる
身の内の広きところに冬木かな
雑炊やもうわすれてもよからうて
歩き来てわたしの手へと冬帽子

前塚かいち
見通しの立たず落葉を掃きにけり
様様な色の現れ掃く落葉
合唱の息継ぎ早し十二月
荊棘なる世にある光クリスマス

木村博昭
歩行器が小春日和を行きたがる
ポケットに両手突っ込み憂国忌
ストーブの火と語り合う一期かな
大蛇(おろち)舞う人が足りない村の冬

嶋田 静
地に近き冬たんぽぽのいびつかな
葉牡丹に渦巻いてありひとり言
煤逃や娘時代の母の写真
寒昴彼女の星はどの辺り

古澤かおる
花園の中へと視野の狭まりぬ
顔小さく手足長き子日記買う
大福に機嫌を直すマントの子
チョキだけで勝ち上がりたるクリスマス

半田澄夫
訪ね行く友の家知る飛蝗かな
老いるとは巡り合うこと栗御飯
耳鳴りがざわめき出す星月夜
干竿の法被が揺れる秋の暮

中島孝子
茸飯満つる香にお焦げ載せ
桜もみじ白き廃墟を包み込み
自然薯掘る父が自慢の道具にて
じゃんけんぽん影绘遊びの秋日かな

橋本喜美子
ダリア園昭和の色の盛りなり
鳴きながら飛び出てゆく鵙の声
いちどきに葉裏返せり初嵐
水底の気のくっきりと秋の川

北橋世喜子
初成を輪切りにしたりレモネード
コスモスや飛行機雲の一直線
もう少し待って欲しいと藤袴
釣瓶落し家族の時を取り込みぬ

上原晃子
黒くなる痰切り豆を眼とす
秋深むメタセコイアの琥珀色
陰凉寺銀木犀の香が包む
夕映を輝く芒急ぎけり

石田敦子
立冬が初冠雪に富士の山
ドアノブに吊り下げてあり富有柿
間引菜を摘む指白くなりゆけり
すれ違ふ子等全員の赤い羽根

長谷川洋子
冬に入るオールドローズ咲ききって
時雨傘外す山鳩鳴く方へ
氷突き天を仰げるもののあり
白菟信じてほしいこの話

東 淑子
紅葉狩みんなで笑うはらはらと
野分来るベッドの上の窓ガラス
さつまいも掘ればすぱっと切れる鍬
朝焼けに消えてゆくなり月の影

〈選後随想〉 耕治
身の内の広きところに冬木かな 湯屋ゆうや
 まず「身の内の広きところ」とはどんなところなのか、そこにどのような風景が広がっているのかを想像する。「広きところに」というゆったりとした言葉の並びが、冬の静けさの中で、作者の心が開いていくような広がりを感じさせる。周囲の人々から離れ、自分自身と向き合う時間の中で、心の自由を感じているのかも知れない。そんな心の中に置かれているのが、冬木なのである。冬木から寂寥とした情景を浮かべることもできるし、春を待つ情意を感じ取ることもできる。ゆうやさんの選んだ言葉に、深い意味と広がりが託されている作品だ。
*大阪観光大学にて。

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