香天集1月12日 岡田耕治 選
三好つや子
冬うらら犬には犬の幼稚園
一切れのケーキを添える風邪薬
バンクシーを待つ壁あまた冬銀河
寒茜ヘモグロビンに火がついた
加地弘子
雪ばんば呆けてとんぼ返りかな
紙切ってみせる包丁十二月
姉が着る妣の愛したちゃんちゃんこ
鮟鱇の吊し切り買う漁師町
春田真理子
黄落の幽冥におくこの身かな
家中に付喪神増え十二月
はち切れんばかりの頬よ実南天
短日の夜は恍惚と爪磨く
北橋世喜子
秋晴の車内放送六ヶ国
のっぽ菊添え木にもたれ香り立つ
着ぶくれて隣近所の集まりぬ
湯気を立てラグビーボール飛び出せる
半田澄夫
秒針の耳に纏わる月の闇
冬の夜半湯煙黄泉へのぼりゆく
小春日やカフェテラスにて何を待つ
シクラメン絵筆を止めて回想す
中島孝子
枯尾花車に合わせ波うねる
デパートや故郷飛騨の赤蕪
すがりたる紅葉を流し洗車水
遊歩道尾花となりて揺れ合いぬ
上原晃子
枯葉踏む音のみ続く牛滝路
紅葉かつ散る牛滝の赤赤と
つわぶきの黄色が急に咲き揃う
スーパーのビッグセールと冬に入る
橋本喜美子
せんべいを断る鹿の冬日向
百歳の叔母の晩酌紅葉鯛
冬紅葉読経の響く二月堂
一斉に枯葉地面を走りけり
牧内登志雄
婆さまの女正月薄化粧
おにぎりをまあるく包む寒の海苔
七種の粥に息災ふつふつと
星明りみしみし伸びる軒氷柱
石田敦子
「自由に」と記す白菊いただきぬ
生姜湯をフウフウと飲む寝るために
一樹だけ輝いている銀杏黄葉
冬日和再配達の荷物待つ
東淑子
大くさめ障子の外はクスクスと
ゆっくりと仕舞う干し物日短し
来るたびに大きくなりぬ敷炬燵
年の瀬やひとり甘酒飲みながら
〈選後随想〉 耕治
紙切ってみせる包丁十二月 加地弘子
冬の寒空の下、紙を切る包丁の鋭い輝きを鮮やかに描き出し、静けさの中に緊張感を生み出している。「紙を切る」という動作は日常的な行為だが、それが「包丁」であるところが、読む者の目を引く。包丁の鋭さや動作の美しさを想起し、まるでパフォーマンスを見ているような臨場感を生み出している。もともと包丁は調理器具であり、温もりを感じさせる道具であるが、同時に鋭い刃を持つ危険な道具でもある。この両極が、冬の静けさの中に潜む緊張感を際立たせている。まして「十二月」、冬の寒さだけでなく、年末の慌ただしさなど、様々なイメージを喚起させる、弘子さんならではの一句だ。
岬町小島にて。
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