香天集4月12日 岡田耕治 選
浅海紀代子
美容室春愁の顔置いてくる
春夕べひっかき傷を猫にもらう
テーブルに二つ椅子足す夕桜
一片は花菜の風に放ちけり
三好つや子
指編みの指からうさぎ光悦忌
卒業日おどけた影が泣いている
春分のバス乗りついで岬まで
ノートの隅のパラパラ漫画燕来る
俎 石山
トラックを横転させる一年生
春眠の死地を彷徨う至福かな
デコポンの突起部分を含みけり
ぶらんこの窪み剃刀錆びている
佐藤静香
鞄より首出す仔猫イルカショー
手話の子の弾ける笑顔つくしんぼ
陽炎を抜けて他国の草の中
泡ひとつ吐いてはまぐり悦に入る
牧内登志雄
ぼっとんと糞の転がり牧開き
初蝶や夢見を覚ます竹の音
霾やざんぶと沈む河馬の波
釜石に鉄の火消ゆる春燈
谷村敏子
駅ホーム糞(まり)に注意と燕の巣
足止める亀の鳴くのを聞きたくて
竹馬の段上がりでき卒園す
熊野路は峡深き里山笑う
佐藤浩章
松江城巡る堀川花見舟
椿満つトンネルをゆくシルバーカー
瀬戸内へかわらけ飛ばし春惜む
玻璃戸浮くナスカ地上絵黄沙降る
山内宏子
花菜摘む母を映せる姉の背
春風に楽譜を飛ばす四分休符
早足のワニとなりたる春の雲
淡路島背中にゆるり春の旅
以上、香天集への投句、ありがとうございます。
〈俳句物語〉岡田耕治
春夕べひっかき傷を猫にもらう 浅海紀代子
わらわは猫、名前はココ。あるじの肉付きのいい手のひらは、わらわの腰から背中へ、さらに耳の後ろへとゆっくりとした愛撫をくれる。そうこうしているうちに、いつしかあるじのお腹を枕に眠りについてしまうのが常である。
だが、今日は違った。窓の外を向かいのレオがのそりと歩いている。わらわはハッと目覚め、起き上がった拍子に、あるじの手首をひっかいてしまったのである。「痛っ」と声を上げ、あるじが洗面所に立った隙に、わらわはレオを追って外へ飛び出した。レオはわらわの姿が見えているはずなのに、そのまま家の中に入ってしまった。
レオは去年の夏に去勢手術を受け、二つのタマタマを失ってしまった。それ以来、わらわを見ても近寄ってくることが少なくなった。以前の引き締まったスタイルも崩れ、急に太ってしまったせいか、家にいる時間が増えている。わらわとは、もはや恋のリズムが合わなくなったのだろうか。
夕刻、あるじのパートナーが帰宅し、二人の会話が始まった。
「今日はココにひっかかれてしまったの」
「え、珍しいね。大丈夫?」
「うん。猫の恋なのかしら、このところピリピリしてる感じなの」
「そろそろ避妊手術した方がいいかも」
「手術となると、三万円以上かかるでしょ」
「いや、補助金が出るから半額くらいでできるんじゃない。でも、先着順だから早く申し込まないと」
この会話を眠ったふりをして聞きながら、わらわはふと思った。
これで、レオとものんびり仲良くできるかも。

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