2026年5月10日日曜日

香天集5月10日 玉記玉、三好つや子、佐藤静香ほか

香天集5月10日 岡田耕治 選

玉記玉
新緑を切り取ることを生業に
花蘇芳なんて内向的な紅
そして今ひねもす箱庭を弄る
雨蛙置けば机が歪なり

三好つや子
フリースクールたんぽぽが時間割
新じゃがの正論ほろり煮崩れる
竹皮を脱いで見事な斬られ役
天道虫六法全書にないルール

佐藤静香
新緑や波長重なる大拍手
春の昼あやかしたちの囲碁大会
墨彩画の一色の妙若葉風
春昼の皿の心地は薔薇色に

高野旅愁
眠られず広辞苑が立っており
風呂に入る雀という街に一日
あかぎれや皆眠るとき星堕ちて
春の鳥鳴くからかの地に思い馳せ

垣内孝雄
切通し道のそよげる新樹光
にわとこの見ゆるベンチに小半時
蜆汁そふる夕餉や老ふたり
篁の匂ひさやけき五月かな

川村定子
引く彼は若芽のみどり残しおり
手庇の内はあまねく花盛り
桜鯛まな板にあるむ目よ
春霞入日見せずに夜に入る

西前照子
震災で帰らぬ友よ十五年
春の畝腰の痛みへ種をまく
入り彼岸三姉弟がそろい来る
春障子忘れし友の写真あり

〈俳句物語〉 岡田耕治
そして今ひねもす箱庭を弄る 玉記玉
 父の四十九日の法要で持ち帰ったのは、二十枚の色紙が入った桐箱だった。実家を継いだ兄は土地や建物を相続し、私は預金と共にこの桐箱を形見分けとして受け取った。手狭な1LDKのマンションには、この桐箱一つで充分だった。
 二十枚の色紙のうち、父の句は三枚だけで、残りは他の俳人からのものだった。季節ごとに父の句を入れ替えているが、夏の句がなかったため、代わりに「馬なればわれ透明の馬ならむ 安正」という句を夏用にした。
 秋、冬、春は色紙の額の下に一輪の花を飾ってきた。しかし、夏用の句に合うものを探すうち、「枯山水セット」を見つけた。ミニチュアの枯山水は、この「透明な馬」である「われ」の存在感をより引き立ててくれるように感じられた。
 当初は説明書通りに砂に紋様を描き、石を配置するだけで済ませるつもりだったが、砂を弄(いじ)るうちに、中学生の頃の箱庭作りの感触が蘇ってきた。学校を休みがちだった当時、医師の勧めで何度か箱庭を作った経験がある。最初は戸惑ったが、次第にミニチュアの木やベンチ、フィギュアを思い通りに配置できることに集中し、没頭していった。
 現在従事しているオペレーターという仕事は、パソコン初心者を相手にすると、「マウス」や「ブラウザ」といった基本的な言葉さえ通じないことがある。目に見えない画面を言葉だけでナビゲートするには「忍耐力」が求められ、さらに電話対応の短縮も要求される。「今すぐ解決しろ」という強いプレッシャーを受け、時には大声で怒鳴られることさえある。
 このような厳しい仕事の日の後、自宅に帰って白い砂を弄ると、自然と心が落ち着く。今はセットの波石ではなく、買い集めたカプセルトイ(ガチャガチャ)のフィギュアを配置し、ゆるい表情の動物たちが日常を楽しむ様子を眺めている。そうすることで、この小さな庭の中に、プレッシャーから解放された「透明な私」が遊んでいるような、穏やかなひとときが訪れるのである。

*怖いものなくなる青葉若葉かな 岡田耕治

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