2026年5月31日日曜日

香天集5月31日 夏礼子、森谷一成、玉記玉、中嶋飛鳥ほか

香天集5月31日 岡田耕治 選

夏礼子
縄電車しろつめくさを終点に
目瞑ればひとの現れ桐の花
いざこざは思い出のなか花は葉に
部屋中に讃岐を満たし煮そら豆

森谷一成
あばら骨あげて春愁抜くところ
参謀の役を愉しむ寄居虫かな
  鴨高田神社御神木一句 
足元がゴジラっぽいぞ樟若葉
ジーパンを懲らしめており青嵐

玉記玉
風の貌いくつも付いている祭
この際パセリに好かれようと思う
キュビスムの理論は涼し水鏡
懸垂はもう限界よ南風吹く

中嶋飛鳥
青葉若葉神社と寺院隣合う
滴りのこだましているファラオの眼
ジーンズのくたびれ愛す心天
花楝手をあずけたる別れ際

辻井こうめ
サングラス外し緑を確かむる
心地良き脱力ありて大海月
緑さす姫鏡台の遺品かな
その声に覚えありけり麦畑

柏原玄
これからは何でもござれ蛙の子
母の日の語り種なる記憶力
かたつむり今を大事にしていたる
渓をゆく水の戯れ花あやめ

砂山恵子
白靴下薄暑の坂を駆け上る
大連に生まれし父や花アカシア
葉桜や生命線は手首まで
母の日の母のコップにイルカの絵

俎石山
長風呂を心配したる朧月
道路脇錆びた二つのヘルメット
亡くなりてやっともらいしカーネーション
右肩の仔猫のいびき途絶えけり

宮崎義雄
鳩を突くハシブトガラス五月闇
花は葉に青空へ鳴るプルトップ
花屑を受ける小さな轍かな
女子会のカフェに紛れて花の果

前藤宏子
大声で小玉スイカを売りにけり
薄暑光老女タバコを買い求む
農家より茄子漬用意できたよ
風薫る見事に老いし同級生

木南明子
聖五月運転免許更新す
青葉燃ゆわれは薬を盛られたり
梅雨の入りステーキランチ久しぶり
走り梅雨隣の人の死を知らず

森本知美
入学の子の手開けばだんご虫
麦笛を吹きし一里の下校かな
蛍袋山の空気を入れて来る
夕蛍川の青春よみがえり

目美規子
塔婆受く寺内の外の薔薇の鉢
故郷へとんと帰らず路地苺
選挙カー半身乗り出し日焼顔
雷鳴ややロングドレスの小走りに

金重こねみ
春の蚊に一度情けを掛けており
百足の子コーヒータイムさまよえる
竹落葉とんぼになりし風のあり
天気予報お日様だけの子供の日

安田康子
珈琲は濃いめがよろしみどりの日
この庭に生きるつもりよ著莪の花
人生の今が後半夏つばめ
銘柄を変える新茶の一服よ

松並美根子
風薫る元小学校へ坂登る
走り梅雨景色あれこれ思い出す
今日からは網戸六枚取り付ける
五月晴泉の森の作品展

〈俳句物語〉岡田耕治
縄電車しろつめくさを終点に  夏礼子
 この春、八〇を過ぎた母と同居を始めた。そのため、勤めていた都市部の幼稚園を辞め、実家から自転車で通える認定子ども園に移った。前任は市立だったが、ここは市立幼稚園の校舎を利用した学校法人の運営である。
 母との同居で一番助かっているのは食事だ。子どもは予測不可能な動きをするため、勤務中はケガや誤飲、アレルギー対応など、一瞬も気が抜けない。以前は一人暮らしで、ついコンビニ弁当や外食に頼りがちだった。それが今、風を切って自転車を漕ぐこと十五分、家に帰れば母の手料理が待っている。これが、新しい職場で毎日をてきぱき過ごせる活力になっている。
 前任と同じく、ここでも3歳児から5歳児の担任を受け持った。ただ、この園では3学年を一つのクラスにして教育・保育を行う混合クラスが三つある。最初は戸惑いがあったものの、すぐに3歳から5歳の子どもたちが共に学び、生活することの良さを実感するようになった。
 子どもたちは園の隅っこの原っぱが大好きで、何も持たずに一時間でも二時間でも遊びに熱中する。今日、4人ずつのグループを作って、校舎から「縄電車」に乗って、しろつめくさが咲く原っぱへと出発した。
 子どもたちは輪になった縄の中に入り、両手でお腹のあたりに縄を持つ。先頭の運転手は5歳児、間に3歳児のお客さん、一番後ろの車掌は4歳児だ。「ガタンゴトン」と口ずさみながら、みんなで息を合わせて歩き、時には走る。運転手役の5歳児が「右に曲がりまーす」と声を上げれば、後ろの子たちも一緒に傾きながら進んでいく。
 以前の園は4歳児は4歳児だけのクラスだったので、子どもたちだけで息を合わせるのは難しく、私たちの誘導や声かけが欠かせなかった。ところが、この混合クラスでは、5歳児が自然に下の子たちを気遣い、リードしてくれる。4歳児はその姿をしっかりと見ていて、「来年は自分もあんな運転手になろう」と学んでいるのだ。
 5歳児の「終点ですよ、みんな降りてください」という合図で、子どもたちは縄を離れ、しろつめくさで王冠を作ったり、四つ葉のクローバーを探したりと、次の遊びに夢中になっている。
 子どもたちの様子を見に来てくれた園長先生に、私は問いかけた。
「3学年一緒の教育って、本当に素敵ですね。なぜ、公立ではこの制度を採り入れないのでしょう?」
園長は微笑んで答える。
「公立には、様々な『しばり』がある。それに、『成功体験』があるからね。人は、成功体験によって失敗する、と言われているわ。」
「それはそうかもしれません。私も以前は『次は、私が5歳児を持つんだ』とばかり思っていましたから。」
「その点、うちは失敗体験を大事にしてるから、子どものためにいいと思ったら何でもできるの。」
*悪人を離れていたり水中り 岡田耕治

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