香天集6月14日 岡田耕治 選
渡邉美保
青梅のころがつてをり兄とゐて
観音の十一面の青葉闇
悪人の手つきで抓む薔薇の虫
子が炊いて余白の多い豆ごはん
湯屋ゆうや
妹と同じ記憶の夏の鳩
砂日傘あれはわたしが立てたもの
仏壇は隠れるところ半夏生
ゴム印はまっすぐ押して花榊
三好つや子
じゃんけんで勝ちとる平和豆ご飯
字余りの時間を生きる花楝
昼顔の螺旋をえがく小声かな
悪人であること忘れ南瓜煮る
佐藤諒子
武具飾る男の子皆家を去り
海ほおずき鳴らす祖母の目少女の目
茄子炊くやトウバンジャンの隠し味
初夏の瓦光らせ大欅
上田真美
あめんぼや水紋の曲たけなわに
ベクトルが重ならぬまま夏来たる
眼に見えぬものら囁やく青葉なり
五月雨や川中島に血の匂う
橋本喜美子
幾百の目は一点に桜咲く
くつろぎし手足を空へ花辛夷
甘夏の香りとともに皮刻む
赤の中に一点の白花椿
中島孝子
空青の残雪の峰絵画とす
玻璃光りふるさと運ぶ黄水仙
風光りステップ音を弾ませる
閉園の遊具を染める花吹雪
北橋世喜子
春炬燵すっぽり被り息を吐く
風強し北の大地に熊目覚め
公園の改修を待つつくしんぼ
春寒し豆腐に湯気の立ちのぼり
半田澄夫
春眠や短編となる老の夢
御堂筋土曜の二人うららけし
人も良し我もまた良し花吹雪
今生の土産にせよと花明り
林おうはく
北斎のブルーを見つけ春夕焼
菜の花の沖ゆく舟を送りけり
行く春や十五年ものレクイエム
梅の香やあの日の記憶運びくる
石田敦子
春満月きれいですよとメール来る
満開の大樹を愛でつ落花浴ぶ
チューリップ親指姫が現れる
先にある供花に押し込む彼岸かな
上原晃子
せせらぎの音の生まれる春の川
風渡る足取りにして青き踏む
春菊の香りと苦味味わいぬ
大玻璃を満たしていたり庭椿
川合道子
どこからも箱根の山を風光る
お浸しにすり胡麻をかけ菜の花よ
花びらを気ままに開きチューリップ
子を祝う花道に添え桜草
市太勝人
春嵐見逃し再生忙しく
春波乱「タッチの呪い」強くなり
徹夜組仁川桜の雨楽し
甲子園ジェット風船復活す
〈俳句物語〉 岡田耕治
青梅のころがつてをり兄とゐて 渡邉美保
友だちと京都の神社を訪れたときのこと。境内には梅の実がたわわに実り、足元には落ちた青梅がいくつも転がっていた。友だちがその一つを拾い上げたので、「落ちた梅は、食べたり漬けたりしないほうが良いそうよ。そのままにしておくしかないのよ」と声をかけた。
「それじゃあ、この青梅たちは切ないわね」。
「でも、少しずつ土へ還っていくのよ。中には種から芽を出して、何年もかけて新しい梅の木へと育っていくこともあるわ」。
ふと、この話を兄から教わったことを思い出した。口数の少なかった兄との、昔の会話だ。私が中学生、兄が高校生だった頃のこと。姉とは服の貸し借りをしたり歌手の話で盛り上がったりしていたが、兄とはいつの間にか会話が減っていた。そんな時期、近くの梅農家の前で、学校帰りの兄と偶然一緒になったことがある。
中学三年生の最後の大会前、私はずっと目標にしていたレギュラーの座をかけて猛練習していたが、突然のスランプに見舞われ、思うようにトスが上げられなくなっていた。自分に代わって後輩がセッターとして生き生きと活躍する姿を、ベンチから眺める日々。人一倍努力を重ねてきたのに、今の状況をどうすることもできず、焦りばかりが募っていた。
私は、部活での苦しい胸の内を兄に漏らした。兄は少し考えてから、「お前は努力家だからな」と言った。
「私ね、先生や友だちから努力家と言われるのが嫌なんだ」
「……」
「だって、才能がないから努力するしかないと思われているようで……」
黙って聞いていた兄は、静かに答えた。
「そうか。でも、『努力する才能』があるということなんじゃないのか」
この一言があったからこそ、私は引退までバレーボールを続けることができた。
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