2026年9月27日日曜日

香天集9月27日 木村博昭、夏礼子、谷川すみれ、柏原玄ほか

香天集9月27日 岡田耕治 選

木村博昭
近道をゆっくり熟れる木通の実
小便の放物線や秋高し
スコップを土深く刺す鵙日和
こぼれ萩あの世この世に友が居る

夏礼子
つくづくとふるさとのことつくつくし
保つとは朱よのうぜんの咲き残る
米粒の般惹心経涼新た
酔芙蓉黄昏どきを一途かな

谷川すみれ
散骨の兄の生き様とろろ汁
朝顔の蔓に夢あり登るべし
諍いて己が寂し秋の空
紅葉狩九十才の計画書

柏原玄
コスモスの無垢の一日を風にあり
うつし世の風を読み込み鰯雲
ドローンの直線を切り秋あかね
勤行の法悦白い曼珠沙華

古澤かおる
傘を干す小一時間を赤とんぼ
変声の頃の目力黒葡萄
敬老日合挽き肉をむちむちす
秋暑し視力検査の当てずっぽう

砂山恵子
百本のリトマス試験秋小鳥来る
好きと言ふ手話を教はる草の花
秋の蝶泣き終へてふと空を見る
音立てて広げるシーツ今朝の秋

春田真理子
ゴーヤ割る魔除の種のありにけり
牛乳を流す哀しき羊雲
蟋蟀や一人米研ぐ夜の厨
長月は頬杖をつき更けにけり

前藤宏子
夜の音にふと加わりし虫の声
椿の実ひとつひとつに目の射して
秋日さす友の耳朶光りけり
息子との二人暮しや稲の花

安部いろん
消えたいと感じる木乃伊秋暑し
水引かぬ地に音のなき稲光
膨張の宇宙に残り大銀河
万人の哀史を記す天の川

金重こねみ
掌に無く手の甲に今朝の秋
災害を嘆きその日が震災忌
浮世絵に学ぶ猛暑の過ごし方
立てぬ秋アイスクリーム買いに行く

松並美根子
秋雨に勢いのあり人傘の波
手捻の古き器よ濃りんどう
吾亦紅変わらぬ思い声にする
雨音の静かに乱れ咲く萩よ

森本知美
母の香に覚めたる夜半や虫すだく
茗荷の子ぬか漬にして明日を待つ
乾杯はソフトクリーム海見つめ
菜園に今日の始まりミニトマト

安田康子
限りあるこの世の時間虫すだく
いぼむしり今の暮らしを生きていく
秋暑し寝て食べて寝て食べて寝る
露けしや会えなくなりし人の縁

木南明子
扇風機しずかに秋の回りけり
退屈をテレビが許す夏の果
葡萄食むことの残りし仕舞風呂
雨蘭の白友情に変わりなし

目美規子
カットした首すじをなで秋の風
夕月夜最終バスは客一人
秋風に翼をあずけ着陸す
お喋りの会となりたる秋彼岸

〈選後随想〉 岡田耕治
こぼれ萩あの世この世に友が居る 木村博昭
 散歩道に零れるように咲く萩の花を見つめながら、ふと亡き友を想う。「あの世この世」という言葉の響きには、寂寥感だけでなく、死を越えてなお変わらない温もりが満ちている。こぼれ散る花は、あの世とこの世を繋ぐ働きをしているようだ。私の経験では、この世の友は様様な事象に影響を受けるので、会ってみなければ分からないが、あの世の友はいつも静かにそこに居てくれる。

保つとは朱よのうぜんの咲き残る 夏礼子
 季節の移ろいの中で、命の熱量を懸命に守り抜こうとする強い意志を感じさせる一句。秋風が吹き始める頃、鮮やかな朱色を誇るように咲き残る凌霄花。「保つ」という抽象的な営みが、燃えるような「朱」という色彩によって鮮烈に具象化されている。何かを守り続けることの厳しさと美しさを、この一輪の花が教えてくれる。

朝顔の蔓に夢あり登るべし 谷川すみれ
 朝顔の蔓がまっすぐに伸びていく姿に、未来への希望と強い意志を感じる。「登るべし」という断定の表現が、自分の夢に向かって一歩を踏み出したときのことを思い出させてくれる。朝露に濡れながら光の方へと進む朝顔の姿に、私たちもまた、自分の夢を信じて明日へ向かう力をわけてもらえる。作者はそう自分に言い聞かせているようだ。

*本心を開いていたり曼珠沙華 岡田耕治

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