2017年8月27日日曜日

香天集8月27日 石井冴、玉記玉、谷川すみれ他

香天集8月27日 岡田耕治 選

石井 冴
紫陽花の力いっぱい萎れおり
水母だけ見ていて時に人の耳
君に会うために胡瓜の曲がりけり
短夜を醒めて久しき父の顔

玉記玉
秋滝に寄るわれも一滴の水
パペットは座って眠り鳥わたる
鳥渡る回転扉からタンゴ
開脚は百八十度小鳥くる

谷川すみれ
蹴ちらしても蹴ちらしても落葉
冬紅葉病窓に手を強くあて
いっぱいの図書室静か芙蓉の実
雪蛍違うよこれは知らぬ道

加地弘子
子かまきり一匹ずつが立ちどまる
水澄流れながらの会話かな
産声を切れ切れに鳴き油蝉
盆の僧私も古稀になりました

北川柊斗
かき氷毒盛るやうにシロップを
反射光まだ攻めて来し晩夏光
たをやかなる微風たゆたふ黒揚羽
八月のふところ深し雲薄し

橋本惠美子(8月)
帰りには傷痛み出す半ズボン
茄子漬ける残り廊下を光らせて
草むしる視野の全てを草にして
もう一度土に還すと草むしる

砂山恵子
花木槿一人ひとりに物語
秋日傘ころころ笑ふ女をり
黄ばみたる漢和辞典とサルビアと
風船蔓いつか一人になる家に

澤本祐子
枇杷の実や吾の口より生まれたる
裏返りつつかなぶんの蘇る
紙の辞書ゆっくり捲くり夏深む
時計草伸びては仮の時刻む

橋爪隆子
百円のコーヒー香る初秋かな
白桃やベッドの上を濡らしたる
黒ぶどう一顆含みて返事せず
一日の終わりが見えぬ残暑かな

橋本惠美子(7月)
紫陽花や始めにもどる数え歌
翅焦がす命の音や誘蛾灯
毛虫わく樹木もろとも伐られけり
グーとチョキ重ねたる子の蝸牛

大杉 衛
錆び匂う薄荷も匂う八月は
カンナ炎ゆ鉄材置場に燃え移り
ひまわりの種子残しけり高層に
夏果てる木綿の折り目美しき

中濱信子
梅雨ふかし言葉少なき人と居て
向日葵の雲遮っておりにけり
バスに乗り遅れたるかと立葵
耳慣れぬ言葉「迎撃」夜の雷

古澤かおる
蟻強しひっきりなしに海の果
梅焼酎色の違いを並べたり
かき氷そろりそろりと二つ来る
夏蓬先端しばらく風に揺れ

立花カズ子(8月)
大夕立見知らぬ家の門に居て
切れ間なく上がる花火の大仕掛
夏帯のかがようてあり輪の中に
夕風にひと日の終り稲の花

木村博昭
戦争のことなど語り遠花火
空蝉の何か託せし形かな
身の孔をみな塞ぎたる蝉しぐれ
原爆忌ことしの空は曇りたる

立花カズ子(7月)
蛙かと思う新葉の杜鵑草
生業のひと日ひと日や花は葉に
代掻や素足で臨む若さかな
朝影の鮮やかなりし濃紫陽花

西嶋豊子
空蝉や歩けば目にや片よせて
原爆の話のあとを寝られずに
打ち水をされて頭をさげており
八月は海の写真を欲しくなる

*写真は、大阪市阿倍野防災センター。

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