2022年4月24日日曜日

香天集4月24日 玉記玉、安田中彦、石井冴、安部礼子ほか

香天集4月24日 岡田耕治 選

玉記玉
青年の屈むは初蝶の高さ
詩に孵るまでを白木蓮と呼ぶ
なんて無力花筏押す花筏
春愁野に座せば野に自生する

安田中彦
亀鳴くやわが瞳孔の開く間際
引鶴や兵士の顔の古びゆく
馬鹿馬鹿と愛されたしや四月馬鹿
初蝶やこれがこの世か眩暈して

石井 冴
穴を出るくちなわ校舎に留まれる
葉脈の春思をそっとしておこう
葉桜を帰る右手を熱くして
万愚節箱のひとつに何もかも

安部礼子
鈍色と化す鞦韆の呻き声
石鹸玉 ルミノール反応の青
返りこぬ視線イコンの春愁
黄砂来るガラス細工の天馬の背

夏 礼子
風の中呼び合う夜の沈丁花
分別は弁えません紫木蓮
長命の手相やなんて四月馬鹿
さくらさくらうどん屋の数弾き出す

嶋田 静
春夕焼線路となってゆく雲の
花吹雪歌の聞こえる別れかな
球根の伸びゆく早さ花菜雨
四月馬鹿嘘の一つもなく暮るる
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2022年4月17日日曜日

香天集4月17日 加地弘子、三好広一郎、中嶋飛鳥、砂山恵子ほか

香天集4月17日 岡田耕治 選

加地弘子
蒲公英に這わせて写すこの笑顔
しゃがの花心ゆくまで水の音
パンジーや女体を揺らし笑い合う
黄泉路まで話の及び花の雲

三好広一郎
弥勒菩薩いちごケーキを思案する
清々しく十八歳の無一物
看護士の煙の長い春の昼
花冷えのどことは言えずそのすべて

中嶋飛鳥
紫木蓮許せぬ言葉消し難く
万愚節舐めた唇すぐ乾き
横顔の紅椿落つまたひとつ
幸先の視線の中をつばくらめ

砂山恵子
あたたかや人とゐること集ふこと
春ともし夫婦二人の夜の散歩
物言はぬことの身軽さ竹の秋
陰あればもうそこにゐぬ仔猫かな

春田真理子
亡き母のうしろにつづく土手桜
芹の川手鏡の母しまいけり
春光やヘンデルの木となる生家
菫摘むように遺されフォトブック

古澤かおる
空き箱に興ずる猫よ春うらら
陶工の揃うバンダナ牡丹の芽
野に遊ぶそこは車で一時間
椿餅茶柱の立つ茶を所望

北村和美
風光る赤マスカラの睫毛から
十年後のイニシャルMの卒業歌
菜の花や代返の顔にやりとし
ぶらんこの放物線の長き足

岡田ヨシ子
スーパーの移動販売夏集う
天草をびっしり広げアスファルト
暑を忘れ組合長が縄を張る
お互いに負けまいとして鯵を釣る

川端大誠
満開の桜が祝う初勝利
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2022年4月10日日曜日

香天集4月10日 釜田きよ子、三好つや子、柴田亨ほか

香天集4月10日 岡田耕治 選

釜田きよ子
一日中背伸びしており葱坊主
首振ればペンペン草の音がする
付き指の疼きにも似て桜どき
新緑に風の濃淡生まれけり

三好つや子
不条理を抱える星や栄螺焼く
春光のそれは中村哲語録
麦青む少年という静電気
千年の春よこたわる木箱かな

柴田亨
ふらここを揺らし彼の地へ向かいけり
草萌の囁ききざす野の仏
墓標なき小さきものよ春巡る
若木にて精一杯の驕りかな

宮下揺子
春一番母を預かる日の暮れて
前髪を自分で切りし遅日かな
花種をもらいて帰る同窓会
十分間脳を鍛える花の雨

小﨑ひろ子
春の月爆弾の降る街を告げ
桜にはずつと翁が座り居る
遠き世の桜にあらず古戦場
ベランダに咲かせて遠き梅の園

永田 文
花曇何をするにもゆるゆると
さざ波の光る水面や梅真白
丈低し越前崖の野水仙
ぱくぱくと鯉は春日の泡を食む

牧内登志雄
屁をひとつ咳ひとつして放哉忌
花筏そこは運河のどん詰まり
一日を錆ゆく乙女椿かな
振つてから透かしておりぬ種袋

秋吉正子
摘む人の無くなっている土筆かな
閉園の桜今年も満開に

川村定子
小鳥来て逆さに止まり紅を食む
春愁や雲は故郷へと流る

大里久代
ランドセル思い出詰めてミニサイズ
卒業す夢ふくらませゆっくりと

北岡昌子
花びらの舞いはじめたる水の中
春の空飛行機雲の伸びてゆく
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2022年4月3日日曜日

香天集4月3日 浅海紀代子、森谷一成、久堀博美ほか

香天集4月3日 岡田耕治 選

浅海紀代子
紫雲英田や今も駈け出す脚のあり
燕来て空がうれしくなっている
涙ぐむこと多くなる桜かな
麦青む昔の我に会いにゆく

森谷一成
戦前の口笛ひとつ梅の空
モノクロの山川草木原発忌
春寒の叫び上げたる鼓膜かな
天上の脈のとどろき花篝

久堀博美
気まぐれな風に彩増すミモザかな
足指を開いて閉じて春の雲
さくら咲く空家の庭に椅子二つ
図書館の一番奥の春愁

河野宗子
バラの芽やまだやわらかき棘を持ち
誕生を祝う絵手紙れんげ草
春の風邪つづく眠りの中にあり
たんぽぽを踏まない方へ散歩道

田中仁美
カーテンにタッセルつけてうららかに
ウクレレのGコード弾く朧の夜
自転車を押して傘さす春の雨
春寒や湯船の湯気の行き先と 

吉丸房江
マネキンの香気吹き出す春衣
ふる里のつくし摘みたくなってくる
チューリップポンと弾けてひ孫待つ
春の音小さきものから動き出す

垣内孝雄
啓蟄や盆栽鉢に罅の入り
亀鳴くや光の充てる仏の間
水温む音のならないオルゴール
小流れにただよふひかり老桜

岡田ヨシ子
草青む二両列車の姿にも
石段に坐る二人の薄氷
春うららポストの音は一通か
玄関や燕のふんの花散らし

大西英雄
天水を二人で急ぐ遍路笠
二人して雨にけぶれる遍路道
阿波の春お大師さんを追いかける

川端勇健
やどかりは見れば見るほどさわりたい

川端伸路
春休みスキーにいけばはしゃぎすぎ
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。