2022年9月25日日曜日

香天集9月25日 夏礼子、久堀博美、加地弘子ほか

香天集9月25日 岡田耕治 選

夏 礼子
向日葵に好みの向きのありにけり
秋澄めり今から雲に乗れそうに
沈黙に九月の空の青を告ぐ
シャッターに閉店の文字秋暑し

久堀博美
天高しこれより道の二股に
とどまれば影を失い秋日差
鰯雲大事忘れて戻りゆく
漣の面にも細波秋の航

加地弘子
にんげんの子どもが好きな赤蜻蛉
鳴かぬ蝉草に移していたりけり
夏休みこの子ゴマメにしたってね
無花果の包みを鳴らす輪ゴムかな

安部礼子
ひび割れたガラスにひとつだけの月
秋の虹易く奪える愛はない
虫の闇ファントムペイン始まりぬ
つるべおとし無害のはずだった街

古澤かおる
木の葉髪頼りなき手となりにけり
階段の途中で迷い木の葉髪
襟足を思いきり見せ今朝の秋
泣き止まぬ赤子の握る椿の実

嶋田 静
太陽が二重に見える炎暑かな
入道雲高し瀬戸内芸術祭
短夜や昨日の日記書いており
あさがおや幼子の手が届きそう

田中仁美
黒留に金色の帯秋日和
紫外線の数値確かめ秋日和
地下を来て地上に出たる秋の暮
蜻蛉の子網に張り付き目を合わす
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2022年9月18日日曜日

香天集9月18日 谷川すみれ、三好広一郎、辻井こうめ他

香天集9月18日 岡田耕治 選

谷川すみれ
入りくんだ水のかたちを赤蜻蛉
宿題の録音を終え敗戦日
まなざしの笑っておりぬななかまど
いくたびも閉めては開ける秋の風

三好広一郎
秋澄むや洗わず捨てるマヨネーズ
右手から夏が離れる自由形
百日紅出来た気になる逆上がり
新米や生卵よくお喋りす

辻井こうめ
いつよりか母の鼻唄花野径
はたはたや九歳の壁超えてくる
秋ともしカバー掛けたる三鬼かな
ガラス瓶いつの日使ふ鷹の爪

木村博昭
匿ってくれる祖母居し花木槿
とんぼうに見られていたる二人かな
宴果てし地上のよごれ月澄みぬ
弓張の月を黙って塾へゆく

宮下揺子
百日紅レム睡眠に赤々と
図書館の本の中より秋思くる
震災忌アラビア糊の古びたる
さえざえと現を写す滝の裏

小崎ひろ子
本棚を衝立として秋の虫
図書館の柿の木家永研究書
伝聞をふるいにかけて秋あかね
猩猩緋目立たぬ場所に秋祭

楽沙千子
紫蘇の香や八十路の指の渋深し
新涼や顔面ほてる厨事
日日の八十路の重み走馬灯
山嶺を襲っていたり蝉時雨

岡田ヨシ子
配給の米に加わり甘藷
藷の穴防空壕としていたる
種藷の暗さに聞けり戦闘機
話す人一人ずつ減り小鳥来る
*岬町小島にて。

2022年9月11日日曜日

香天集9月11日 柴田亨、三好つや子、砂山恵子ほか

香天集9月11日 岡田耕治 選

柴田亨
夏の月わずかにかすみゆく独歩
カラフルな遊具ばかりが陽焼けする
翡翠や捕食者として動かざる
懇ろに六つの地蔵夏終わる

三好つや子
枝豆のよき塩味と距離感と
水澄みてどこか脈打つ試験管
胸中にがちゃがちゃ棲んでいたるかな
すいっちょん照れ笑いする児の前歯

砂山恵子
蜩やモノトーンなる夕餉にも
虫集く闇を喜ぶかのやうに
月を見る地球八十億に我
落花生掘りて地球の軽くなる

中嶋飛鳥
とうとつに話は痣へ夜の秋
秋立つと坐り直して『阿部一族』
遠き日の桃の産毛と弟と 
生身魂座右に経口補水液

春田真理子
一歳の半分にして実南天
初めての歯の生えてあり草青む
漆黒の睫毛をおこす青葉風
名前旗立てて次代の風薫る

北村和美
女生徒の笑いが響き稲光
うつ向きの線香花火円を描き
好物のこれさえあれば盆用意
目分量砂糖と塩と新小豆 
*岬町小島にて。

2022年9月4日日曜日

香天集9月4日 渡邉美穂、森谷一成、木村博昭ほか

香天集9月4日 岡田耕治 選

渡邉美保
蘭鋳の痣美しく向きを変へ
終戦日蟻は列より逸れたがり
草に坐し風のたひらよ小鳥くる
台風の夜のトランプ遊びかな

森谷一成
天地へとろけてしまい三尺寢
夜濯ぎの紅きひとひら紛れたる
青天の一機くれよと捕虫網
眼をつむる暇もあらで展墓の蚊

木村博昭
散骨の浮かびて揺れる夜光虫
甚平は寝るふりをして起きている
三人の私が居て秋暑し
兄弟や白桃一つ匂いたる

浅海紀代子
向日葵や何を信じて天を向く
健やかな汗の一日を仕舞いおり
一人居に西瓜大きく坐りけり
蜩と残る日にちを減らしゆく 

辻井こうめ
さるすべり風のはなしを聴いてをり
サンダルの小さな爪のアートかな
白桃の皿に移すとくもりけり
素通りす阪急ホテル白木槿

牧内登志雄
品書きの墨痕新た走蕎麥
かぶりつく指の節くれ桃の汁
珈琲はロースト深め小鳥來る
目ん玉の小さく揃ふ初秋刀魚

垣内孝雄
秋夕焼はなやいでくるケーナの音
朝顔の鉢にたつぷり水を遣る
スタンプは「あて先不明」秋の雨
横町の土産に求め新豆腐

吉丸房江
がら空きの電車が走る稲の花
梅干して米寿ともあれ医者知らず
稲光浴びて来たりし香りかな
夏休み今日が最後の蝉の声

藪内静枝
夕焼の明日は晴れると空ぼてり
河原の夕刻ゆかし月見草
にじみ出てポタポタ落ちる玉の汗
夕端居ご隠居さんとゆう感じ

秋吉正子
玄関の手すり残して夏終わる
捕虫網並べて子らの来るを待つ

北岡昌子
理智院へ飛び交ってゆく赤とんぼ
夏の果天満宮から見渡せり

大里久代
稲光すぐに爆音着いてくる
膝頭突き刺すほどの暑さかな
*岬町小島にて。